約 4,409,961 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3154.html
まったくもってボコボコだ。 一方的に嬲られて、一発もこっちは相手を殴れない。 ストレスが溜まる以上に、訳がわかんねえ。 コイツは何だ? 悪魔か何かか? ……屈辱? ああ、その通りだ。こりゃあどう考えてもかつてない屈辱だ。 これと同じほどのモノを味わったのはいつだ?……んなの、決まってる! ―――劉鳳、あのクソムカつくホーリー野郎に初めて負けた時だ。 負け知らずだったこっちを一方的にボコりまくって、こっちのチンケなプライドをズタズタにしてくれた。 挙句の果てには、俺なんて眼中に無いともきやがった。 ふざけんじゃねえぞ、この“シェルブリット”のカズマを舐めんじゃねえ! テメエが俺を眼中にも入れるつもりが無えってんなら、俺が無理矢理にでも入ってやるだけだ! 無視できないように、その胸に名を刻ませてやるだけだ! プライドをズタズタにされて、ボコボコにされたままのやられっぱなしで誰が終わるかってんだ! ……それはなぁ、本土のアルター使いさんよぉ……テメエも同じだ! 借りは返す、それも倍返しのオマケ付きで、だ! やりたい放題やりやがって、ずっとテメエのターンってか? ……ハッ、ざけんなよ! 今度はこっちの番だ! もう容赦しねえ、ぶち切れたぞ、躊躇わねえぞ。 テメエだけは許さねえ、ボコる、徹底的にボコる。 だからこそな、そうやっていつまでも上から――― ―――勝ち誇って見下してんじゃねえよ! 瞬間、ゾクリと背を走る悪寒をなのはは確かに感じた。 そしてそれを直感的に悟り、ありえないと思いながらもそれでも目の前の現実がそれを否定していた。 吹き飛ばした、確かに立ち上がれないほどの決定打を決めた心算だ。 いくらなんでも驚異的なタフネスを誇ろうとも、それを立ち上がるのならもはや人間ではない。 だというのに、あの男は立ち上がってみせた。 それこそフラフラ、意識が有るのかどうかも一瞥しただけでは判断できない。 体中がボロボロで、右腕を覆うアルターも既に砕けている。 満身創痍などと言う言葉すら生温い、彼はもはや死に体に等しい。 戦闘など出来るはずも無く、ましてやこちらを打倒することなど不可能な所業のはずだ。 それでも気圧された。歴戦のエースオブエースであるはずの彼女は確かに彼を見た瞬間に恐怖を覚えた。 「………どうした…よ……?………まだ…終わっちゃ…いねえ…ぜ……」 やがて不敵に、目一杯不敵に笑いながらこちらを見上げてカズマはそう言ってきた。 それは正しく、戦闘続行の意思表示。決して自分はまだ敗北していないのだと言う明確な反逆だ。 なのはは戸惑う、相手がとても余力が残った状態とも思えなければ、それで自分に勝てるとも思わない。 けれどもこちらもまた、あの男を倒せない。例えもう一度バスターを撃ち込んでも、きっと男は立ち上がる。 非殺傷設定の魔法と言えど、これ以上の過剰ダメージは相手をショック死に陥れかねない危険性がある。 人命を奪う心算の無い彼女には、これ以上の彼への攻撃は恐怖を覚えると共に、どうしても躊躇われたものだった。 けれどそれも所詮は彼女の側の都合。 相手は―――カズマはそんな事情など知ったことではない。 「手加減抜き……つったよな? だったら―――」 ―――こっちも此処から先は全力全開だ! そう叫ぶと同時、天を掴むが如く右腕を突き出すカズマ。 再構成……否、これは更にその先の力。 先程、エクセリオンモードのスバル・ナカジマを倒したあの黄金の輝き。 なのはたちで言うならばリミッター解除に該当する行為。 どう見ても体に限界以上の負担を強いているはずのアレを今の状態で解き放つなど自殺行為もいい所だ。 黄金の輝きに目を眩ませられながら、それでもなのはは相手に制止を呼びかける。 自身の保身の為ではなく、彼の体の為を思っての行為だった。 だがそれを聞き入れるはずが、カズマにあるはずがないのも事実。 輝きが集束していく。それと共に、更なる進化を果たして顕現する彼のシェルブリット。 閉じていた右目を開け、両目で真っ直ぐにこちらを定めながら、遂に黄金の拳が解き放たれようとしていた。 「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ―――」 本能で身の危険、そして何よりも背後に護衛すべきトレーラーがある事を察したなのはは、自身に退路が無い事をハッとして悟った。 だからこそ呆けている暇など無かった。取れる選択肢はもはや一つだけ、迎撃と言う道しか残っていない。 だがリミッター解除も今更間に合わず、今の状態の砲撃で先程の比ではない事が明らかな一撃を破れるか? 出来る出来ないではない、やるしかないのだ。 瞬時にそう腹を括った彼女はレイジングハートに命じ、ありったけのカートリッジのロードを行う。 現状分の魔力をカートリッジを大量に用いての無理矢理の底上げ。……正直、限界越えの蛮行に等しい過負荷超過もいい所だ。 だが今はこれしかない、この方法でしか対抗できない。 だから躊躇っている暇は無い。 「ディバィィィィィィィィィィィィィィィィィィン―――」 来るなら来い、こちらも既に腹を決めた。 何度でも立ち上がり、何度でも向かってくると言うのなら。 そこまでこちらとの対話を拒絶しようと言うのなら――― ―――こちらも意地でも譲らない。必ずお話を聞かせてもらう。 だからこそのこれは、互いに退けぬ意地の張り合い。 高町なのはとカズマとの、一対一の戦いであり、思いのぶつけ合いだ。 そしてそれならば―――絶対に負ける心算は無い。 反逆の拳と不屈の魔砲。 一度目は決着が付いたその勝負、だが今度こそ絶対にケリを付ける為の第二ラウンド。 ……否、最終ラウンド! 「バァァァアアアアアアアアアアアアストォォォオオオオオオオオオオオオ!!」 「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 黄金の輝きの拳が一直線、しかし回避も防御も許さぬ勢いでなのはに向かう。 だが生憎となのははそのどちらの選択も取らない、当然だ。自分は勝ちを拾いに行くのだ。逃げに徹してどうする。 だからこその迎撃、だからこその返答。 カズマの拳が相手を撃ち抜く弾丸だというのなら、それも良いだろう。 こちらは更にその上を行く、正真正銘の無敵の砲撃で迎え撃つ、ただそれだけだ。 自身の代名詞とも言える、十年間ずっと武器として鍛え上げてきた。 彼が誇る拳と同様に、自分が唯一誇れるその長所。 その全力全開の桜色の砲撃がカズマに直撃、彼を飲み込んでいく。 だが黄金の輝きは今度こそその輝きを翳らすことなく、どんどんとこちらに向かって迫ってくる。 なのはは更に魔力を砲撃に注ぎ込み続ける。 後など無い、考えない、今を勝ち取るために死力を尽くす。 桜色の奔流はそれによって勢いを増し、飲み込むカズマは押し返そうと勢いを増す。 カズマもそれには顔を顰め、苦しげに押し返され始める。 だがまだだ、まだ終わっちゃいない。これくらいでは終われない。 テメエのその砲撃が無敵だって言うんなら――― ―――俺はその無敵に反逆してやる! だからこそ、もっとだ! もっと、もっと、もっと、もっともっともっともっと――― 「―――もっと輝けぇぇぇえええええええええええええええええええええ!!」 咆哮と同時、シェルブリットの回転する黄金の輝きは、その桜色の奔流すら凌駕し始める。 限界などとうに超えている。だからこそ、ブレーキなど存在しない。 ギアは常にフルスロット、焼き切れるまで回し続ける。 あのクソムカつく女、アイツに意地でも一発叩き込むまで、誰が終わってたまるか! だからこそ、もっと輝け、そして突き進め。 アイツを、あの女を、目の前の強大な壁を――― ―――突き破れッ!! 黄金と桜色、二つの輝きの激突。 両者共に退けぬ意地を、限界を超えてのぶつかり合い。 切ったカードは正しく鬼札。手持ちで唯一無二の最強カード。 そのどちらともに絶対の信を置いていただけに、負ける事は許されない。 等しく拮抗を続け、押し破らんと侵攻する二つの力。 拳と魔砲、対極にありながらそれでもどこか似たその両者の攻撃。 反逆と無敵を代表するその両者の激突、それを制したのは――― 「―――ッ!?」 驚愕に歪み、目を見開いたのは高町なのは。 無敵を誇った最強の桜色の奔流、それを遂に突き破り黄金の輝きが目前へと迫ってきたからだ。 「なのはさんッ!?」 それが誰の声だったか、部下たちの内の誰かなのだろうがこの瞬間には判別できない。 そんな余裕が無かった、それ程に驚異的なその黄金の拳が目の前に迫っていたからだ。 直撃すれば撃墜、それだけはまず間違いない。 だからこそ、それだけは避ける必要がある。 とはいえ、この軌道、このタイミング、この速度。 全てが回避不能だと言うことをなのは本人にも確信させた。 だがだからといって諦めない、諦めてなどたまるものか。 「俺の……勝ちだぁぁぁああああああああああああああッ!」 迫る黄金の拳、勝ち鬨を同時に挙げる相手。 だが――― 「まだだよ、まだ」 ―――終わってなどいない。 そのなのはの言葉と同時、カズマの拳が遂になのはの白いバリアジャケットの表面に触れ――― 「―――なっ!?」 ―――瞬間、彼女を保護するバリアジャケットの上衣が爆発する。 リアクティブパージ、バリアジャケットの表面を瞬間的に自ら爆破させることで防御を行う一度限りの切り札。 だがそのカズマにとっての予想外の爆発、そして威力はカズマの拳の軌道を逸らすには充分なものだった。 そしてなのは自身も衝撃に吹き飛ばされはしたが、直撃の結末だけは回避する。 だが――― 誤算があったとしたら、それはそれでも彼の拳が止まらなかったこと。 そして突っ込んでいく軌道の先にあるものだった。 そう、カズマが突っ込む先に待ち構えているのは彼女たちにとっては護衛対象である物資を積んだトレーラーだった。 流石に直撃を避けるために必死だったなのはは、その瞬間背後の存在を忘れてしまい、その配慮を怠った。 結果、カズマの拳はそのままトレーラーへと突っ込み、車両側面に風穴を開けてしまった。 それは完全にトレーラーを相手に半壊させてしまった結果でしかなかった。 外した、必殺必倒のタイミングで放ったはずの、今までで文句なく最強と思われた一撃。 喰らわせれば勝てる、その確信が有ったからこそあの桜色の奔流を突っ切った瞬間に勝ち鬨の叫びを上げたのだ。 だが結果はどうだ、思いもしなかった予想外の相手の隠し玉で拳の軌道は逸らされて、ぶっ飛ばせたのはトレーラーが一台のみ。 当初の目的ならそれは成功と言える結果ではあるが、なのはを倒すことしかもはや頭にないカズマには失敗以外の何ものでもない。 だがだからとはいえ、そこで諦めるという選択を当然の如く選ばないのが反逆者だ。 故にこそ、外したのならもう一発。今度こそ間違いなく避けえない一撃を相手に叩き込む。 その意志とともに炎上するトレーラーから拳を引き抜き、再び相手へとその拳を構えようとしたその時だった。 「―――ぐぅっ!?……クソがぁっ……!」 こんな時に、今までの限界越えの反動が一気に体へと降りかかってきて、もはやアルターを維持するどころか、立っていることすらままならなくなる。 「……畜生…ッ…もうちょっとだってのに……ッ!」 あと少し、もう一発であの気に食わない相手を倒せるのだ。だというのにどうしてこの体は、右腕は言う事を聞かない。 それどころか直ぐにでももはや意識を失い倒れてもおかしくない疲労まで襲い掛かってくる。間が悪いどころの騒ぎではない。 これ程の屈辱、これ程の無念、或いはあの宿敵である劉鳳との戦いに無粋な横槍を入れられる以上に納得できない。 なんとか体を叱咤させ、疲労に鞭打ち反逆の姿勢を崩しはしないが、それでももう限界だった。 先程はあんなに限界を必死になって二度も超えたというのに今回ばかりは無理だなどとはあまりにも皮肉すぎるとも思えた。 だがこればかりはもはやどうすることも出来ない。故にこそ、力を出し切った結果として遂にカズマの体が大地に倒れようとしたその時だった。 「カズマぁぁぁあああああああああああ!」 聞きなれた、それこそ腐れ縁であり身近とも言える男の声が聞こえてきた。 やりやがった。……アイツは、カズマは本当にやりやがった。 もう無理だと思った。いくら何でももう立ち上がれない。 相棒は、カズマは敗北した。 先の魔砲に吹き飛ばされた結果を見て、君島はその絶望を遂に受け入れかけた。 彼にとってもそれは屈辱、無念以外の何ものでもない。 結局は相棒に荒事は任せ切りの他力本願。それを自覚しているからこそ、自分は小賢しかろうとも相棒の足りない部分を補える役回りを引き受けようと思っていた。 例え自分にアルター能力がなかろうとも、相棒には強力なアルターがある。だから自分は相棒を勝たせられるお膳立てを作れれば、それは立派な戦いだ。 君島は自身のその考えを疑っても恥じてもいない。何故なら自分たちはコンビであり、二人で戦い続けてきたのだから。 だからこそカズマの勝利は君島の勝利であり、その逆もまた然りだった。 ずっとそうやって自分たちはやってきた。 だというのに、この様は何だ? 相棒だと一蓮托生だとコンビだと、都合の良い事を散々言ってきて、一度状況が悪くなりびびれば、もう自分は関係ないと途中下車。 ……違うだろう、そうじゃねえだろ? 確かに自分は臆病だ、腕っ節もからきしでアルターも持っていない。 頭が回ろうと、口が上手かろうと、所詮は学も教養もないただのチンピラだ。 それでも、そんな自分でも誇りを持っていたことが一つだけあったはずだ。 それはあの馬鹿な考え無し、ついでに同居してる女の子を満足に養えない甲斐性無しのロクデナシ、そしてクズとも言える男。 そんなどうしようもないにも関わらず、それでも折れず曲がらず退かない、不退転の意地を背負った本物の男であるアイツ……カズマと組んで戦っていることだ。 それだけが君島にとって、誰にも恥じることなく誇れたことだったはずだ。 アイツの足手まといではなく、肩を並べて歩ける相棒であるその資格こそが君島邦彦にとっての全てではなかったのか? それを捨てちまって、アイツ一人に全て任せて投げ出しちまってそれで何が残る? 「……残らねえ……何も……」 残るものなどあるはずがない、それが当たり前だったはずだ。 なのにそれなら、俺は此処で何をやっている。ビビッて震えて隠れて、解説役の傍観者になりきって勝手に期待して勝手に絶望して――― 情けねえ、それでも男の子かってんだ!? まだやれることがあるだろう。自分に出来ることがあるはずだ。 資格を失おうとも、弱い臆病者だろうとも、それでもやらなきゃならねえことがある。 相棒を……ダチを助けられなくて、何が男だ。 だからこそ命懸けでも、怖かろうとも殺されようとも直ぐにでも飛び出してカズマを助けに行く。 それが君島邦彦がしなければならない戦いだ。 そう決死行を覚悟したそれと同時、カズマは再び立ち上がった。 そして今までに見たこともないほどの強大な力で、先の破れた魔砲すらも今度は打ち破ってみせた。 君島はそのカズマの輝きに、功績に魅せられていた。 だが直ぐにハッとなり、此処から見ていても分かるほどに、もはや力尽き倒れようとしているカズマを確認すると、車を飛ばして助けへと急行する。 相棒のその名前を叫びながら。 周囲への確認を怠っていたのは今更ながらに気づいた致命的なミスだった。 結果、突如乱入してきたジープの運転手は倒れたカズマを車に乗せると瞬く間にこの場から離脱を図ろうとしていた。 スバルは気絶中、他の三人は逃亡を阻止すべく動きかけるもトレーラーに乗っている運転手の救助と言う人命優先を覆すことは出来ない。 そしてなのはもまた先の二度の全力の砲撃、過負荷超過のカートリッジロードの反動は魔法を扱うことすら無理なのが現状。 故に乱入者と反逆者を乗せたジープは悠々とこちらの追撃を振り切り、結果的に逃亡を成功させた。 護衛目的であるトレーラーは半壊、襲撃者も取り逃がす、この結果は正に・・・・・・ 「……大失態、だね」 部下たちはベストを尽くした、それは間違いない。 ならばこの結果は自分にあるのだろう、もう見えなくなり始めたジープの姿を見送りながらなのははその結果を苦々しくも認めるしかなかった。 結局、最後まで話し合う機会を勝ち取れなかった。その最大の無念も共に抱きながら……。 結論から言えばマーティン・ジグマールからは咎めの一つすら無かった。 それどころか彼はこの結果をむしろ予想以上に素晴らしいものだと褒め称えた。 相手のその予想外の反応に一瞬こそなのはは驚けど、しかし直ぐにこの流れのからくりを察することが出来た。 何てことはない、これは要するに――― 「私たちを試したんですね?」 なのはのその問いに、ジグマールもまた隠すことなくその通りだと肯定の頷きを示した。 薄々予想できていたことだっただけに、それ程に彼女は腹立たしさを感じることは無かった。 当然だろう、ほぼ予想されていたこちらの経路と相手の襲撃。 トレーラーに積まれていた物資が最低限の物しか無かったという事実。 任務に就いた人員の構成とその人数。 何よりも自分たちの素性と相手の正体。 それはつまり、 「最初からジグマール隊長は私たち六課と彼が衝突するように、この任務を用意していたんですね」 全ての結果がその答を示しているではないか。 ジグマールにとってカズマというアルター能力者は、彼が知る数少ない『向こう側の世界』とこちらを繋ぐ大変に興味深い存在だった。 彼は自身の目的の為にそういった人材を欲していた、だがあの男は飼い慣らせる存在ではない。 むしろ逆、反抗を止める事ない反逆者。明確な敵だ。 だが彼の力は劉鳳と同レベルの潜在能力を秘めた可能性に満ちたもの、必ずいずれはどんな手を使ってでも手に入れる。 だが劉鳳以上にまだカズマはジグマールの想定するレベルには至っていない。力は目覚めへと至っていない。 だからこそ、彼の力を目覚めさせ、引き出す必要がある。 それに最適だったのは自身の部隊のホーリー隊員たちと戦わせることであった。 だがその求めるには至らぬレベルであろうとも、一般のホーリー隊員たちではもはや敵うレベルを超えた力をカズマは持っていた。 これ以上にカズマの力を引き出すには、もはや劉鳳と戦わせる他に方法が無かった。 だがそれはジグマールが危惧する、貴重な存在である両者共に潰し合うという恐れにもなりかねない。 そんな時だったのだ、この機動六課という異世界の組織の能力者たちがこのロストグラウンドへと舞い降りたのは。 魔法というアルターとは異なる未知の能力、そしてソレを扱う者の劉鳳にすら劣らぬ実力。 ジグマールにとって彼女たちはうってつけの人材だったのだ。 そうして彼が仕組んだ思惑通りに……否、それ以上の結果を彼女たちとカズマの戦いは示してくれた。 イーリィヤンの“絶対知覚”による監視を通して、カズマが『向こう側』の力の一端を引き出す成果が確認されたのだから、ジグマールにとってそれは喜ぶべきことだった。 本音を語れば、それを引き出してくれたなのはたちの健闘には感謝してもし足りぬほどだ。 尤も、それが六課からすれば良い面の皮の扱いを受けたに等しいこともまた承知してのことであったが。 その思惑の全てを把握できずとも、なのはにもまたそれを察することはできた。 言ってみれば茶番、任務とはいえ部下を危険に晒され一方的に利用されただけに等しい扱いに怒りや不満を覚えないわけでは無い。 だが食わせ者と当初から警戒していた以上、これぐらいの扱いは受ける可能性があること自体は承知の上だった。 最初からそもそも管理局と本土の間には、そして六課とホーリーの間には利用し合う打算関係は織り込まれ済みだ。 感情に任せた糾弾に身を任せるほどに彼女とてもはや向こう見ずとはいられない。 こちらにも知り得たものが多かった結果がある以上、ギブアンドテイクの元にこの成果を互いに黙認しあうことこそが、大人が取るべき選択だ。 充分になのはとてそれは分かっている。だからこそ此処では短絡的な感情に任せた態度だけは取らなかった。 (……でも君なら、きっと違うんだろうね) 先程死闘を演じた相手……カズマの姿が脳裏へと浮かび、思わずそんな風に思ってしまった。 もし彼が自分の立場なら、きっと怒りと言う感情に任せてジグマールへと殴りかかっているはずだ。 まったくもって実に羨ましい、それだけはこの瞬間に正直に思った高町なのはのカズマという男への羨望だった。 そしてそんな彼女の思いなど知らぬ当人は、トレーラーへと襲撃をかける前以上に苛立っていた。 当然だろう、上等な喧嘩だったのは確かだが、結局は相手を殴り損ねた。 負けた心算など断じてないが、終わってみればこっちはボコボコにされたのにあの女は一発もこちらの拳を貰っていない。 ダメージの総量から言えば勝ち逃げされたのに等しい。 「……あの女、次会ったら絶対に容赦しねえ」 最低でも一発、あの不敵な面にぶち込まないことには収まりがつきそうに無い。 フェミニズムなど欠片も持ち合わせぬこの男にとっては、もはやそれは躊躇いすらも抱かせない決定事項の如く決まっていた。 間違いなく、この瞬間からあの名前も知らぬ女は劉鳳と並ぶ絶対に相容れぬ敵とカズマは認識していた。 まぁ、それも今は置いておくとして…… 「おい、君島」 帰路に着く車の中、相棒に名を呼ばれ君島はビクリと反応した。 直前であんな別れをした後に、余計とは思わないが結果的に彼を助けるために横槍を入れた。 目に見えて不機嫌、苛立ちのボルテージがかつてないほど高まっているであろう今のカズマだ。こちらに余計な事をしやがってとでも八つ当たりじみた怒りをぶつけられかねない。 ……まぁ、それもいいさ。今回は寸前で腑抜けちまったこちらも悪い。カズマを助けたことも後悔していないし、先の覚悟していた一発も結局殴られてはいない。 だからこそ、今回くらいは甘んじて受けてやろう。それもまた相棒の務めと覚悟した時だった。 「んでどうなんだ、まだテメエのやってる事に後悔や迷いはあるのかよ?」 それは予想外だったカズマからの問いだった。 君島はそれに思わず驚きながら助手席の相棒へと視線を向けていた。 カズマは疲れたのか、ぐったりと背をシートに預けながら目を瞑ったままだった。 その横顔からは、彼が何を思っているかは君島にもはっきりとは分からない。 ただ呆然と沈黙したまま、君島は相棒の横顔を見ていた後、やがて――― 「そんな余裕、もう無くしちまったよ」 ―――視線を再び前へと戻しながら、君島は静かにそう答えた。 後悔することも迷うことも人間なら誰だってすることだ。 事実、君島だって自分の人生を振り返ってみてもその連続であったことは間違いない。 正直、カズマがあの本土のアルター使いと戦っていた最中までだってそうだったのだ。 けれど、先程の激闘の最後に相棒はとんでもない奇蹟を見せてくれた。 或いは、あれは君島にとっては希望だったのかもしれない。 だからこそ、助けに飛び出す頃には腹を括れた。 この男に付いて行く、この男と戦っていくというのならそれで精一杯。 うじうじと悩んだり悔いたり、ましてや迷うなどと言う余裕を抱く暇などない。 要するに、覚悟を決めたということだ。 そして覚悟を決めた以上は――― 「―――今はただ目の前の壁を乗り越える、それしかねえ。……だろ?」 ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、君島はカズマに向かってそう言った。 そしてソレを聞いたカズマが浮かべていた表情もまた、自分と同じものであった。 腐れ縁から続く気づけば長い協力関係だが、これほど心底気が合って笑い合うことが出来たのは、或いはこの瞬間が初めてかもしれなかった。 凱旋とはとても言えない帰路の途で、それでも二人は久しぶりに愉快に笑いあうことが出来ていた。 由詑かなみがカズマの帰宅を知ったのは、表に君島の車が停まった音がしてカズマが車から降りながら君島へと別れを告げている声が聞こえたからだった。 今日もカズマは一緒に働きに出かける約束を破り、また君島と一緒に何処かへと出かけていた。 かなみはカズマが外で何をしているのか、その詳しい事を知らない。訊いてもカズマ自身が話してはくれないという理由もあった。 それでも君島と一緒に何か仕事をしているようではあるようで、少ないがお金を稼いで帰ってくることがある。 尤も、それも米と野菜を買い溜めてしまえば幾ばくも残らない額だが。 はっきり言ってしまえば自分たちの生活は火の車であり、決して余裕のあるものでもない。 カズマの稼ぎだけでは暮らしていけないからこそ、かなみもまた牧場の手伝いをして働いているのだ。むしろ、カズマの不定期の稼ぎよりも余程彼女の方が貢献しているとさえ言える実情だ。 甲斐性無しのロクデナシ、と偶に不満を揶揄するように彼に向かって言うが彼が反論せずにそれを受け入れるのはこの現実を認めているからでもあるようだ。 そうならばちゃんと働いて欲しい、それがかなみがカズマに持つ要望だったが、カズマはこれを殆ど守ってくれない。 仕事場に連れて行くことに成功しても目を離せば逃げられる、かなみが大人たちに申し訳なく何度も謝っていることを彼は知ってもいないことだろう。 そうしてマトモに働いてくれないカズマは君島と一緒に何かをしている。その何かが分からず、危ない事をしているのではなかろうかと彼女はいつも心配していた。 かなみからすればお金云々はハッキリ言ってしまえば二の次、彼女が何よりも望んでいるのはこの生活が安心して平和にいつまでも続けられることである。 カズマが無事に傍に居てくれるなら、それで自分の願いは殆ど叶っている。彼女は別に裕福になることなど望んでいないのだし、今がずっと続いてくれるならそれで満足だ。 だが此処は無法の大地であるロストグラウンド、ネイティブアルターやホールドの脅威にいつ曝されても可笑しくは無い、そんな場所だ。 かなみにとってはだからこそ不安だった、いつかカズマがこれらの争いに巻き込まれて自分の元を去っていくのではなかろうか、と……。 だからこそ――― 「おう、今帰ったぞ。かなみ」 そう言って帰ってきたカズマへとそんな不安は杞憂だと思いながら、微笑みかけてこの言葉を言わなければならないのだ。 「うん、お帰りなさい。カズくん」 一つだけ、どうしても分からずに引っかかっていた疑問が漸くに氷解した。 帰りを待つ少女の元へと帰り、彼女のいつも通りの笑みと言葉を聞き、それで分かった。 「……かなみ」 少女の名を呼ぶ、それに彼女は不思議そうに首を傾げながら、 「なに、どうかしたの……カズくん?」 こちらの態度に不審か不安を感じたのだろう、表情と声に滲み出ていた。 「……いいや、何でもねえさ」 だが少女にそんな顔をさせるわけにはいかず、カズマは何事もないようにそう答えながらかなみの頭に手を伸ばして頭を撫でた。 慣れない行為に思っていた以上に手に力が込められてしまっていたのか、彼女の髪を結果的にクシャクシャにしてしまい、リボンも曲がってしまった。 「ああ、酷いよカズくん!」 当然かなみからすれば不満そのものだったようで、逆に泣きそうな顔をされて怒られてしまった。 「……あ、いや…ワリい、すまねえ、許せ」 そう言いながらいつものように必死に結局は謝った。踏んだり蹴ったりの出来事ばかりの今日だったが、最後のコレが一番堪えた気がしてならなかった。 (……にしても、何か引っかかると思ってみれば) 何故あの女に自分は訳もなくあんなにも苛立ちを感じてしまっていたのか。 言葉を交わす度に不機嫌となってしまったのか。 ……何てことは無い、気づきさえすれば至極尤もなことだ。 (あの女の声、かなみにそっくりだったじゃねえか) ならば苛立つのもまた当然だ。 それはカズマにとってかなみの存在が憎いからでは無い。むしろその逆の存在であるからだ。 由詑かなみという少女はカズマにとって貴重な守るべき存在なのだ。 甲斐性無しのロクデナシ、ついでにクズも加えていい自分がそれでも生きている日常の象徴とも呼べる存在。 決して、アルター使い“シェルブリット”のカズマの戦いの中にだけはいてはならない存在。 そうであるはずの少女、まるでそんな彼女が戦場に居て、そして自分の敵である事を無意識に思わせてしまう声をあの女はしていたのだ。 実にこちらの一方的な都合だが、それを容認できるカズマではない。 (……あの女とはやっぱ尚更、次でケリ付けなきゃならねえらしいな) “シェルブリット”のカズマの戦いの中には、由詑かなみを連想させるような存在は認めてはならない。 だからこそ、あの女の声はもう戦いの中では聞きたくない。 だからこその改めての固い決意だった。 「……カズくん?」 やはり今日の彼の様子はどこか変だ。正直、少し怖いとすら思ったくらいだ。 君島と一緒に出かけた先で何かあったのだろうか。危ないことに巻き込まれていなければいいのだがと不安にもなる。 だからこそ心配気にもう一度その名を呼んだのだが、 「ん、心配すんな。何でもねえよ」 そう言いながらいつものように診療台に座り、目を瞑ってしまう。 そしてあっという間にカズマはもはや夢の住人となってしまっていた。 その様子から疲れているのだろうと察したかなみは、部屋から毛布を持ってくると、それをカズマにかけてやり、部屋の電気を消した。 「おやすみなさい、カズくん」 最後にそう就寝の言葉を告げると、かなみも今日はもう眠るために自室へと戻っていく。 何か色々とゴタゴタが起こり、これから自分たちの生活が大きく変わってしまうかもしれない。 その不安はかなみの中からはやはり消えることは無い。 それでも今はそれを心配していても仕方がない。今はまだその時じゃない。傍にカズマがちゃんと居てくれる。 そして彼は自分を置いていったりしない、そう信じることができる。 だから今は、これでいい。 そう吹っ切ってしまえば、後に心配することは殆どなく鬱な気分も無くなった。 これならば今日もぐっすりと眠れそうだ。 もしかしたらまた、あの“夢”が見られるかもしれない。 それを正直、願いながらかなみは床に就き眠りにヘと落ちていった。 ……夢を、夢を見ていました。 夢の中のわたしは、何かに強く抗うそんな人になっていました。 その人の前に現れたのは、白くて綺麗で、そして強い、そんな女の人でした。 その人は女の人を相手に戦い、何度も倒されました。 それでも何度も何度も、その人は立ち上がります。 決して負けない、認めない、そして逃げない。まるでそんな事を告げるように。 何度も倒され、何度も立ち上がり、何度もぶつかっていきます。 その人も女の人も、どちらも決して諦めず、退こうとはしません。 まるでお互いに、絶対に譲れないものを通し合うように。 どちらが正しいか、どちらが間違っているか、わたしには分かりません。 夢の中のあなたには、負けて欲しくない。確かにそう強く思いました。 でも同時に、対峙する女の人にもまた屈して欲しくないとも思ってしまいました。 それが何故か、わたしには分かりません。 それでも、わたしは思ってしまったのです。 夢の中のあなた、そして女の人。 この二人が、争い合う以外の別の道で重なることは無いのだろうかと。 わたしはただ、そう願い続けることしか出来そうにはありませんでした。 ただ、そう願い続けることしか…… 次回予告 第2話 高町なのは 無法の大地で生きてきた男。 数多の世界の空を飛んできた女。 価値観・願望は対極を示し、 反対に根幹の想いには共感を示す中、 女の言葉は男の拳に何を届かすことが出来るのか。 カズマとなのは、再びの出会いが双方に示す道とは…… 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3153.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3148.html
https://w.atwiki.jp/nanohainnocent/pages/24.html
媒体 発行号 カード リライズ 娘TYPE 2013年2月号 高町なのは [Force-Style ver.N] 2013年3月号 八神はやて [Force-Style ver.H] 2013年6月号 八神ヴィータ [Force-Style ver.V] コンプエース 2013年2月号 2013年3月号 八神ヴィータ [熱風の鉄騎] コンプティーク 2013年2月号 高町なのは [With セイクリッドハート] Newtype 2012年8月号 フェイト・テスタロッサ [黒衣の魔法少女] 2013年2月号 フェイト・テスタロッサ [Force-Style ver.F] 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A s パンフレット 魔法少女リリカルなのはtype 2012 AUTUMN アプリNewtype vol.2 高町なのは [なりたてデュエリスト] アプリスタイル Vol.11 月刊アプリスタイル 創刊号 レアチケット 3月号 ファミ通Mobage Vol.11 アミティエ・フローリアン [ツインザッパー]
https://w.atwiki.jp/henroy/pages/94.html
【魔法少女リリカルなのはシリーズ】の参加者の追跡表 高町なのは 4 NO. 作品名 作者 016 戦いの狼煙 ◆OCD.CeuWFo 035 ニアミス ◆gry038wOvE 045 nothing(前編)nothing(後編) ◆7pf62HiyTE 056 変身超人大戦・開幕変身超人大戦・危機変身超人大戦・襲来変身超人大戦・イナクナリナサイ変身超人大戦・最後の乱入者変身超人大戦・そして―――― ◆LuuKRM2PEg フェイト・テスタロッサ 6 NO. 作品名 作者 009 四重奏―カルテット―(前編)四重奏―カルテット―(後編) ◆amQF0quq.k 032 自業自得 ◆OCD.CeuWFo 039 彼らは知らない ◆LuuKRM2PEg 044 友へのQ/相棒との再会 ◆eQhlNH2BMs 048 戦いは始まる ◆Ltg/xlcQkg 059 答えが、まったくわからない(前編)答えが、まったくわからない(後編) ◆LuuKRM2PEg ユーノ・スクライア 5 NO. 作品名 作者 004 決意のT/少年の使命 ◆XksB4AwhxU 039 彼らは知らない ◆LuuKRM2PEg 044 友へのQ/相棒との再会 ◆eQhlNH2BMs 048 戦いは始まる ◆Ltg/xlcQkg 059 答えが、まったくわからない(前編)答えが、まったくわからない(後編) ◆LuuKRM2PEg スバル・ナカジマ 8 NO. 作品名 作者 012 あの時の自分と向き合って ◆XksB4AwhxU 024 現れた魔女! その名はノーザ!! ◆LuuKRM2PEg 034 捲られたカード、占うように笑う(前編)捲られたカード、占うように笑う(後編) ◆udCC9cHvps 056 変身超人大戦・開幕変身超人大戦・危機変身超人大戦・襲来変身超人大戦・イナクナリナサイ変身超人大戦・最後の乱入者変身超人大戦・そして―――― ◆LuuKRM2PEg 070 Lの季節/I don t know the truthLの季節/手ごたえのない愛 ◆7pf62HiyTE 090 青き地獄の姉妹 ◆LuuKRM2PEg 094 「親友」(1)「親友」(2)「親友」(3)「親友」(4) ◆gry038wOvE 106 解放(1)解放(2)解放(3)解放(4) ◆LuuKRM2PEg ティアナ・ランスター 6 NO. 作品名 作者 014 brother & sister (前編)brother & sister (後編) ◆7pf62HiyTE 050 飢・渇・心 ◆udCC9cHvps 058 未知のメモリとその可能性 ◆OmtW54r7Tc 075 新たなる戦い! 思いは駆け巡る!! ◆LuuKRM2PEg 097 ライバル!!誰?(前編)ライバル!!誰?(後編) ◆gry038wOvE 106 解放(1)解放(2)解放(3)解放(4) ◆LuuKRM2PEg 高町ヴィヴィオ 26 NO. 作品名 作者 010 戦慄のN/究極の闇をもたらす魔人 ◆FTrPA9Zlak 049 波紋呼ぶ赤の森 ◆eQhlNH2BMs 054 街(Nasca Version)街(Pine Version)街(Vivid Version) ◆7pf62HiyTE 064 風が私を呼んでいる ◆gry038wOvE 080 上を向いて歩け ◆LuuKRM2PEg 088 no more words ◆7pf62HiyTE 100 警察署の空に(前編)警察署の空に(中編)警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE 118 メモリとスーツと魔法陣 132 人形遣いと少女 146 Bad City 1 Shape of my HeartBad City 2 Power of ShineBad City 3 Ghost in the ShellBad City 4 I Don’t Want to Miss a ThingBad City 5 星を継ぐ者-Shooting Star- 151 フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 ◆OmtW54r7Tc 163 騎士の物語ふたりの物語変わり者の物語 ◆gry038wOvE 168 壊れゆく常識 ◆LuuKRM2PEg 178 Waiting for a Girl ◆gry038wOvE 179 のら犬にさえなれない(前編)のら犬にさえなれない(後編) 182 The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 -The Gears of Destiny - 結成!ガイアセイバーズ ヒーロー最大の作戦 -The Gears of Destiny - 忘れえぬ思い出を胸に -The Gears of Destiny - 全参加者最終状態表 - 188 大いなる眠り(前編)大いなる眠り(後編) 191 黎明の襲撃者(小雨 2 00~2 10)黎明の襲撃者(雨 2 10~2 20)黎明の襲撃者(雷雨 2 20~2 30)黎明の襲撃者(風雨 2 30~)黎明の襲撃者(曇心 2 30~) 193 三番目のN/ああ鳴海探偵事務所三番目のN/孤門、目覚める 194 HOLDING OUT FOR A HERO!! - I need a hero -HOLDING OUT FOR A HERO!! - You need a hero - 200 怪奇!闇生物ゴハットの罠 201 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Aパート)覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート)覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) 208 崩壊─ゲームオーバー─(1)崩壊─ゲームオーバー─(2)崩壊─ゲームオーバー─(3)崩壊─ゲームオーバー─(4)崩壊─ゲームオーバー─(5)崩壊─ゲームオーバー─(6)崩壊─ゲームオーバー─(7)崩壊─ゲームオーバー─(8)崩壊─ゲームオーバー─(9)崩壊─ゲームオーバー─(10)崩壊─ゲームオーバー─(11)崩壊─ゲームオーバー─(12) 211 あたしの、世界中の友達あたしの、いくつものアヤマチ 218 BRIGHT STREAM(1)BRIGHT STREAM(2)BRIGHT STREAM(3)BRIGHT STREAM(4)BRIGHT STREAM(5) 219 変身─ファイナルミッション─(1)変身─ファイナルミッション─(2)変身─ファイナルミッション─(3)変身─ファイナルミッション─(4)変身─ファイナルミッション─(5)変身─ファイナルミッション─(6)変身─ファイナルミッション─(7)変身─ファイナルミッション─(8)変身─ファイナルミッション─(9)変身─ファイナルミッション─(10) アインハルト・ストラトス 11 NO. 作品名 作者 017 覇王と決意と蝙蝠男 ◆Z9iNYeY9a2 034 捲られたカード、占うように笑う(前編)捲られたカード、占うように笑う(後編) ◆udCC9cHvps 056 変身超人大戦・開幕変身超人大戦・危機変身超人大戦・襲来変身超人大戦・イナクナリナサイ変身超人大戦・最後の乱入者変身超人大戦・そして―――― ◆LuuKRM2PEg 073 黒き十字架(前編)黒き十字架(後編) ◆gry038wOvE 098 希望 ◆LuuKRM2PEg 100 警察署の空に(前編)警察署の空に(中編)警察署の空に(後編) ◆gry038wOvE 113 かがやく空ときみの声(前編)かがやく空ときみの声(後編) 114 Hボイルド探偵/ヤクソクノマチHボイルド探偵/ハーフボイルドノリュウギWっくわーるど/イチポンドノフクインWっくわーるど/ウルセイヤツラ ◆7pf62HiyTE 126 放送と悲しみとそれぞれの想い御大将出陣 ◆OmtW54r7Tc 137 街角軍記 ◆gry038wOvE 146 Bad City 1 Shape of my HeartBad City 2 Power of ShineBad City 3 Ghost in the ShellBad City 4 I Don’t Want to Miss a ThingBad City 5 星を継ぐ者-Shooting Star- 【魔法少女リリカルなのはシリーズ】 【仮面ライダーW】 【仮面ライダーSPIRITS】 【侍戦隊シンケンジャー】 【ハートキャッチプリキュア!】 【魔法少女まどか☆マギカ】 【らんま1/2】 【フレッシュプリキュア!】 【ウルトラマンネクサス】 【仮面ライダークウガ】 【宇宙の騎士テッカマンブレード】 【牙狼-GARO-】 【シークレット】 【超光戦士シャンゼリオン】 【主催陣営】 【外部世界】
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/132.html
リンカーコア 「連結させる核」の名の通り、魔導師(騎士)の体内にあり、体内で生成される魔力を集結・発露させる働きを持つ器官。 魔導師の資質はそのままリンカーコアの性質であり、魔導師の能力調査などの際にはリンカーコアを調査する。 魔法の資質 一般的に、魔法が認知されてない世界の住人はリンカーコアを持たないか、持っていても極端に小さい。 そのため魔法に触れることができず、念話に反応することもない。なのはやグレアムは生まれつきリンカーコアを持ち合わせていたことになる。 これは遺伝や血筋とは無関係な突然変異的発生であり、なのはたちの世界においては「突然変異体」が生まれる確率は比較的高いようである。 アームドデバイス ベルカの騎士たちの魔法発動体は、ほとんどが武器の形を取っている。 ミッド式デバイスのように魔法のサポートをする性能は低いが、その分武器としての性能は格段に高い。 例外はシャマルのクラールヴィントだが、これは彼女が戦闘要員ではなく、後方支援担当であることが理由。 騎士服 ベルカの騎士たちが纏う、ミッド式魔導師のバリアジャケットに相当する防護服。 通常、ベルカの騎士たちの防護服は「騎士甲冑」と呼ばれ、鎧のような重装であることが多いが、 闇の書の守護騎士一同は、腕部や靴などを除いて装甲部がほとんどない衣服である。 ただし、実用面では騎士甲冑もミッド式魔導師たちと同じように自らの魔力で生成しているため、見た目の材質と防御力・重量などはほとんど一致しない。 ベルカ式カートリッジシステム 圧縮魔力を込めたカートリッジをデバイス内で炸裂させ、術者とデバイスに魔力を満たすことによって爆発的なパワーを得ることができるシステム。 瞬間的に莫大な魔力を扱う分制御が困難であり、使いこなすことのできる術者やデバイスシステムが少ないこと、 さらにはデバイスを破損させる可能性も高いため、現在はほとんど使われていない。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3408.html
あの男の事が許せないか? かつてストレイト・クーガーから問われたその問いに、今ならばスバル・ナカジマはハッキリと答えられただろう。 ああ、許せない。許せないとも、許していいはずなどないと。 ハッキリと憤怒と憎悪の念をもって、そう迷わずに答えることが彼女には出来た。 この男が、自分から大切な者を奪い、大切な者を傷つけた。 故にこそ、許せない。 絶対に……絶対にッ! だからこそ―― 「カァァァズゥマァァァアアアアアアアアアアア!」 相手の、その憎き仇である獣の名を、あらん限りの憎悪を込めて叫ぶ。 その怒りを、握り固め振り被ったその拳へと込めながら。 眼前に迫り来る黄金に怯む事すらなく、空色の発光と共にスバルは相手を目掛けて突っ込んだ。 黄金と空色。アルターと魔法。拳と拳。 二つの激突が閃光と震動、そして地を割り、雲海を切り裂こうが、如何なる現象を発生させようが一切関係ない。 もはや今のスバル・ナカジマは眼前のこの獣以外には何も見えてはいなかったのだから。 そう―― ――あたしは、こいつを殺したい。 それはもはや疾風というよりはむしろ流星。 実際、スバル・ナカジマの突撃の勢いを真正面から対峙する事に覚悟を固めていたカズマでさえ、思わずに数歩怯み、押し負けたほどだ。 実際、互いにぶつけ合ったシェルブリットとリボルバーナックル……それが削り取られるように欠けたのはカズマのシェルブリットであった。 大したものだ、そして凄まじい威力と殺気だとすら腐りきったカズマですらそれは思わずに感心を抱くほど。 ……まぁ、そうでなければ意味も価値もないのだが。 それに―― 「この程度じゃあ……全然足りねえんだよッ!」 怒声と共に、弾かれたシェルブリット再び強引にスバルへと向けてカズマは殴りかかる。 殺気も勢いも上等だが……たかだかこの程度の輝きで命をくれてやるほどに己は親切じゃない。 腐りきった、底の底へと堕ちきった外道が、生き汚い死に損ないが、簡単に命を差し出すなどと戯けた事をするはずがない。 「俺の命が欲しいってんなら、テメェも命くらい懸けて挑んで来い!」 逆にド腐れとして返り討ちにして喰らいきってやる、そんな考えすらもカズマは抱いていた。 だからこその、それを分からせてやる為の一撃。 カズマの強引なその拳は咄嗟にマッハキャリバーが展開したプロテクションを叩き割り、スバルを弾き飛ばす―― 「――そんなの……承知の上だッ!」 ――ことはなく、強引に踏ん張ってそれに耐えたスバルが逆に顎先を蹴り返してきた。 強烈な、脳天に響く一撃に、思わずカズマも蹈鞴を踏みながら数歩後退。 その隙を逃さぬと言うように、間髪要れずに拳を叩き込んでくるスバル。 抉りこむようなレバーブロー。思わず九の字に身体が折れ曲がるのを追撃するように顔面へ向かって拳の一撃。 ミシリと鈍く響く嫌な音と共にカズマの額が切れ、血によって赤く染まる。 「――ハッ!」 しかし、血に染まりながらも、それでも獣はそれに歓喜を抱くかのように笑っていた。 そして笑っているだけではない。殴られたら殴り返す……彼にとっては当たり前の常識を実行し返すのを忘れてはいない。 頭ごと薙ぎ飛ばすと言わんばかりの大振りによる横薙ぎの一撃。咄嗟にスバルは顔を引いて眼前スレスレでそれを躱すも…… 「――ッ!? がァッ!?」 急激に返し刃のようにバックブローが彼女の回避速度を超える速度で戻ってきて、その頬を殴り飛ばす。 衝撃で吹き飛びかけるスバルだが、それをカズマは許さない。当然だ、まだまだ全然殴り返してなどいないのだから。 吹き飛びかけるスバルの頭、その髪を強引に掴んでこちらに向かって引っ張る。 為すがままに引っ張られて寄ってきたスバルの顔面、それを目掛けてカズマは膝頭を叩き込んだ。 鼻血だか額だかどこが切れたのかは分からないが、同じようにスバルもまた頭部より出血し、その飛び散った血が彼女のハチマキを赤へと染める。 もう一丁とばかりにふらつきながら後退しかけているスバルへと、カズマはシェルブリットを纏う拳を彼女の腹を目掛けて叩き込む。 だが―― 「――ガァッ!?」 同時、被弾すら意に介さずと言わんばかりにスバルのカウンターがカズマの側頭部へと叩き込まれた。 衝撃で脳が揺れる。気持ち悪さや吐き気もそうだが、生物として根本的にどうしようもないダメージにさしものカズマも揺らぎかけ…… 「……ざ……けん……な……ッ!」 無様に膝をつくことなど死んでもしてたまるか、そう示さんばかりに強引に膝を震わせながらも立ったまま踏ん張る。 霞みかけている視界の先で、膝をついて震えているスバル・ナカジマの姿を確認。 ……おい、どうした? テメェはその程度か? アイツは……あの女なら、それくらいのダメージ、平然と立ち上がりやがったぞ。 敵討ちを吠えるってんなら、あの女と同じくらいの気概を見せろよ。 理不尽なそんな憤慨を顕にしながら、それが出来ないならさっさと潰れろと言わんばかりにゆっくりと近付いて拳を彼女目掛けて振り下ろそうとしたその瞬間だった。 「……ウ、イン……グ、……ッ……」 ポツリと搾り出すように何かを呟いているスバル。 何をぶつぶつ言っているのか、とカズマが怪訝というよりも不快感も顕にしたその瞬間だった。 「――ロード……ッ!」 叫び、同時彼女が地面を叩く。 発生する魔法陣。そしてそこから現れる空色の道。 突如、眼前へと発生させられたそれに対応できず、突き刺さるようにカズマはそれに直撃しながら吹き飛ばされた。 負けない。 負けてたまるか。こんな奴に……こんな外道に、絶対に負けてやるもんか! ここで、こんな相手に負けてしまえば、高町なのはの名すらも穢れよう。 そんなことは認めない、絶対に。 そんな気概も顕に、土壇場の反撃。展開したウイングロードがカズマへと突き刺さり、彼をそのまま吹き飛ばす。 「マッハ、キャリバー……ッ!」 相棒に、強引に呼びかけ、求めるのは切り札の解除。 A.C.Sモード。そのスタンバイ要請。 ダメージの蓄積した身体の今のスバルに、それを行使するのは自殺行為も同じ。 『相棒! 止してください、それよりも今は橘あすかを連れて離脱を――』 「うるさい! 早くしろッ!」 頭に血が上り、怒りと戦いへの興奮で冷静さを欠いたスバルは、普段の彼女からは出るはずもない荒々しい強引な暴言で相棒の制止を遮った。 離脱……そんなこと、事此処に至って自分もそれに相手も許すはずがない。 それに―― 「これは敵討ちなんだ! なのはさんの! 君島さんの! 社長の!……皆の仇を討つんだよッ!」 そう、それを果たさずに、あの危険人物を生かしたままに、高町なのはの理想をこのロストグラウンドで果たせるはずがない。 あの獣は討たなければならない。殺さなければならない。 なのはが遣り残したであろう無念……その後始末を自分が果たすのだ! 『……落ち着いてください、相棒。高町なのははあなたにそのような事を望んでは――』 それに君島邦彦は彼が殺したわけではない。橘あすかとてまだ助かるかもしれない。 なのに怒りに任せて暴走して、感情の赴くままに、師の遺志すらも曲解させて、そうしてその結果に彼女に残るのは何だ? ……何も無い、後悔と虚無感だけだ。 それは君島を助けられなかった時以上に、スバル自身を絶望させて、闇へと落としてしまうだろう。 そしてそうなってしまえば……もはやそこに救いはない。 そうなるのが目に見えていて、マッハキャリバーにそれが容認できるはずがない。 だからこそ―― 「マッハキャリバー、何やってんのよ!? 早く――」 『――いい加減にしなさい!』 スバルの怒声を更に上回る音量を持って、マッハキャリバーは彼女の言葉を遮った。 「……マッハ……キャリバー………?」 今までずっと従順であり支えでもあった己がデバイスからの拒絶。それにわけがわからないと言った様子も顕にスバルは戸惑う。 彼女の暴走とて、怒りに駆られてしまったそれとて無理はない。彼女の心情、これまでの境遇を思えば、マッハキャリバーとて身を引き裂かれるかのような痛みを感じる。 ……けれど、それでも今の彼女は間違っている。 それは高町なのはが望んだ、そして彼女が後を託し、自らの意志でそれを引き継いだ他ならぬスバル・ナカジマ自身の決意にも反する。 高町なのははもういない、何処にもいない。そして彼女の仲間……機動六課の面々もまた此処にはいない。 だからこそ、今の相棒を止められるのは……過ちを犯させないように踏み止まらせられるのは相棒たる自分を置いて他にはいない。 それに他ならぬマッハキャリバー自身が、過ちを犯す、復讐の獣と化してしまうスバルの姿など見たくはなかった。 だからこそ―― 『思い出しなさい、スバル・ナカジマ。あなたは高町なのはへと何を誓ったのですか?』 その言葉に、スバルはビクリと震える。 誓い。高町なのはの墓前へと、自身が誓ったその―― 『彼女は何を望んでいたのですか? 何を願い、何をあなたへと託そうとしたのですか?』 激情に駆られた復讐という行為か? 後先も考えずに、己の感情だけを相手にぶつけ、そして傷つけることか? 『あなたは彼女の言葉に、彼女の意志に何を見出し、何に憧れたのですか?』 スバル・ナカジマへと高町なのはが教えた事は何か? 教えたかった事は何か? 四年前、何に憧れ、何に涙し、何を目指そうとしていたのか。 ……分かっている。それくらい分かっている。 「……知ってるよ」 マッハキャリバーに言われなくたって、そんな事は分かっている。忘れた事だって一度だってありはしない。 高町なのはに関する事をスバル・ナカジマが忘れる事など何一つとしてありはしない。 当たり前だ。自分の目標、憧れの人だったのだ。忘れる事などあるわけがない。 全部憶えている。全部……全部ッ! 一つだって忘れた事なんてない! でも―― 「分かってるよ! あたしがやってる事が違うっていうことくらい! マッハキャリバーなんかにわざわざ言われなくたって! 全部……全部ッ! 分かってるよッ!」 頭を振って涙も顕に、怒鳴るようにスバルはマッハキャリバーへと向かって叫び返す。 流石にスバルの豹変に、その勢いにマッハキャリバーもまた気圧されたかのように言葉を詰まらせる。 けれどそれすら意に介さずに、スバルの叫びは続く。 「なのはさんはこんな事望んでなんかいない!……君島さんだって、きっとこんな事、望んじゃいない!」 そんな優しい二人だったからこそ、スバル・ナカジマは憧れたのだ。 けれど―― 「でも二人がそうでもあたし自身が納得できない! 許せないんだよ、あいつが! 許すことなんて……出来ないんだよ……」 そう、高町なのはも君島邦彦も、そして橘あすかも結局の所は関係ない。 あの男が……カズマという男を許せないのは、許すことが出来ないのは、全部自分の、自分自身の勝手な感情だ。 なのはも君島も、カズマと関わりさえしなければ死ななかった。死ななくて済んだのだ。 あの二人は結局、カズマの為に死んだのも同じではないか。どっちも、アイツさえ放っておけば死なずにすんだのに、あんな奴を助けようとしたから、死んでしまった。 「あたしは……あんな奴より、あんな奴を助けるよりも、もっと二人に生きてて欲しかった!」 もっと自分を助けて欲しかった。支えて欲しかった。導いて欲しかった。 けれど彼らは自分ではなくカズマを選び、そして死んでしまった。 その事実が悔しくて、やるせなくて、悲しくて、我慢できない。 醜い嫉妬だ。どんなお題目や建前を並べようが、根本的な感情がそれであることくらいスバル自身だって分かっている。 だからこそ、そんな選ばなかった……選んでもらえなかったからこそ、せめて、自分が彼女たちの遺志を、その生き様を継ごうと思った。 最後に残ったそれくらいは、もう誰にも渡したくなかったから。 それなのに―― 「それなのに……アイツが、他の誰でもないアイツが、あたしから全部取ってったアイツが、なのはさんたちが残したものを……穢してるんだ!」 それをどうして許せよう。 それをどうして納得しよう。 そんな事、出来るはずがない。出来るはずがないではないか。 あんな無様に蹲って、目を閉ざして、耳を塞いで、現実から逃げて。 立ち向かう事をやめて、無意味な戦いの中から出て来ようともしないあんな生き方こそ、死んでいったなのはや君島に対しての裏切りであり、侮辱ではないか。 そのような蛮行……許せるはずがないではないか。 「だから、あたしは――」 ――あいつを討って、なのはさんたちの無念を晴らす! 『――ッ!? 相棒、止めなさ――』 マッハキャリバーの最後の制止の言葉すら強引に振り切って、スバルはウイングロードに飛び乗ると共にその上を駆け抜ける。 駆け抜けたその先にいる憎き仇――逃げ出した無様な獣に引導を渡す為に。 『ああ、お前は強い。そりゃあ中々のもんだ』 速さは兎も角として強さだけならば、或いは俺の次くらいには強くなれるかもしれないなとストレイト・クーガーはカズマへとそう言ってきた。 在りし日の……もう過ぎ去って戻れないかつての記憶。 あの兄貴分気取りの訳の分からない男の事を、しかもよりにもよってそんな言葉を今更どうして思い出しているのだろうかとカズマ自身が不思議と思うくらいだった。 『けどな、腹が減ったらどうする? 飯は? 服は? 寝床は?』 最低最悪の無法の大地と謳われるロストグラウンド。そこに住むロクデナシのアウトローだろうと突き詰めれば人間である事には変わりない。 人間の生活において最低限に必要な要素……衣食住。その日渡りの根無し草、風来坊を気取ろうともやはり人間である限り最低限は必須ともなる。 例え自分たちアルター使いであろうとも例外では無い。 いや、アルター使いであるからこそ尚更に大変なんだと何処か諭すようにあの男は幼いカズマへと告げてきた。 カズマにとっては深く考える必要性すらも無い、小五月蝿いだけの説教。 ……そう、あの時はまだそんな認識だったのだ。 『全て力で奪うのか?』 何を今更、弱肉強食をモットーとするこの無法の大地でそれ以外の方法なんて無いだろうと鼻を鳴らして内心で馬鹿にしていたのを思い出す。 それが態度に出ていたのだろう。それがお前の答えかと些か落胆したような溜め息も見せながらクーガーは問いかけてきた。 『そうやって、お前が手に入れたモンのお零れに群がってきた馬鹿共を従えて、お山の大将気取るのか?』 そうして口にこそしなかったが、彼はそのこちらを見据えてくる眼でありありと告げてきていた。 随分小さな器だな、お前……と。 馬鹿にされていたのは間違いない。それに無性に腹が立った。こちらを勝手に測るクーガーの態度に酷くムカついた。 そんなんじゃねえ。そんなんじゃねえよ。けど…… 俺には力がある。 全部欲しい物は奪い取って、自分の物に出来るくらいの力がある。 その力で……まぁ、気に入った奴がいたら気紛れに護ってやるくらい別に良いだろうが。 簡単なんだ。ああ、簡単だ。 俺は強いんだから。力があるんだから。 この大地は力がある奴の言い分だけが、結局の所最後には通るんだから。 だから、誰にも負けない自分がそうしたところで―― 『それとも全部独り占めしようとして、テメエを見せつけるか?』 クーガーはそんな事をこちらを見透かしたように告げながら、最後に笑って。 まるでそれが予言だとでも言うように―― 『――消えてなくなるぞ? 何もかも』 不思議な確信を込めながら、そんなふざけた事を言ってきやがった。 あまりにもムカついたので、その時にカズマは言い返すように、そんなクーガーに対して不敵に笑いながら告げたのを覚えている。 『――そんなこと、なるわけねえよ』 俺に力があり続ける限り、そんな事になどなるはずがない。 だから、クーガーの言っている事など実現するはずも無い妄言だと。 そう言い返すカズマの言葉に、クーガーは何も言わなかった。 ……そう、何も言ってはこなかった。 それが、カズマとストレイト・クーガーがある日唐突に別れる事になる前に、あったそんな出来事。 あれからふらりとクーガーがカズマを置いて何処かへ消えてしまったのは、そう遠くない日のことであった。 「……ああ、結局はテメエの言う通りだ」 腹立たしい事この上ないが、事実その通りなのだから様ァない。 ああ、見事にクーガーの言葉は予言となって的中し、カズマの未来を決定付けた。 結局、あの時にクーガー相手に偉そうに誇った力などでは、何も護れはしなかった。 ――居場所も。 ――相棒も。 ――大切な存在も。 何もかもを失って、結局出来た事など単なる八つ当たり。復讐。壊す事だけだった。 しかもそれすら……そんな憎悪と憤怒の結果ですら、逆に敵に泣かされるなんて事になった本当に情けない結果でしかなかった。 カズマは思う。 『……そっか。ありがとな―――こんな馬鹿とつるんでくれてよ』 君島邦彦はどうしてこんな馬鹿の為に命を投げ出しておきながら、そんな礼などを言ってきたのだろうかと。 『わたし泣くから、カズくんの分まで泣くから!』 由詑かなみはどうしてこんなロクデナシの為に悲しんで、涙なんて勿体無いものまで流していたのか。 そして―― 『カズマ……くん……君は……ひとりじゃ…ないよ……』 高町なのははどうしてこんなクズの為なんかに命を投げ出してまで構い、そして最後に優しく笑えていたのか。 ……分からない。分かるはずなどありはしない。 所詮自分は餓えて彷徨う、壊す事しか能のない無様な獣。心を持ち温かく、慈しむ事の優しさを知った彼ら人間のことなど理解出来ようはずがない。 そう、所詮は無いものねだり。叶う筈もない無様な憧れ。 分不相応にもそれが温かかったから、それが綺麗だったから、或いは自分にも手に入るのではないのかと憧れて、手を伸ばそうとしただけ。 そして現実はそれを許さず、力に驕り分を弁えなかった愚かな獣へと罰を与えた、ただそれだけのことだ。 そしてその結果……行き着いた結果こそがこの様だ。 無様……ああ、この上もない無様。 だが、例えそうだとしても―― 「――それならそれで、似合いの終わり方ってモンがあるだろう」 相応の幕引きはあってしかるべき。 そう、復讐に焦がれた愚かな獣を、新たな若い獣が同じ感情を以ってこの身を断罪する。 それこそお誂え向きではないか。そのまま丸々こちらの荷物を彼女へと押し付ける事そのものだが……そんな事、こっちが知ったことではない。 兎に角、もう疲れたのだ。背負い続ける事も、逃げ続ける事も。 だったら、この場で全てを―― 「……ああ、全部終わりにしようじゃねえか」 腹に突き刺さった不意打ちのウイングロード。それを掴んで強引に上に飛び乗る事で先端に突き刺さっていたのを回避したカズマは、彼女の作ったその道の上で、己を討ちに来るだろう彼女を迎え撃つ為に待ち続ける。 スバル・ナカジマ。 君島が恩人だと信頼を寄せ、そして恐らくはなのはの身内なのだろうあの少女。 橘あすかというお膳立てに加え、溜まりに溜まりきった怒りの爆発した彼女は、正しくかつての自分と同じだ。 彼女ならばやるだろう。例え命を懸けて刺し違えようが、こちらを殺しに来てくれるはず。女ではあるがなのは同様に根性がある。きっとそれくらいは出来る。 ある意味でカズマが望んでいることは、自分自身がかつての自分と同じ者に殺されるという度し難く矛盾したものだ。 だがそんな事は構わない。どうでもいい。賢しい理屈の修飾などする必要はない。 もっと単純に考えればいい。獣の間にも世代交代は必須だ。ただスバルが自分を超える新たな獣となって自分を殺せばそれで良い、ただ単純にそう思っているだけに過ぎない。 せめてなのはの愛したなのはの身内に殺されるというのなら……歪んでいるが、一応は筋を通す事くらいにはなるはずだ。 「……悪いな、なのは」 復讐の獣と化して猛るスバル。かつての自分とまったく同じ存在。 なのははそんな自分を救おうとしたが、自分はスバルを救おうとなどしていない。 ただ押し付けて逃げ出すだけ。つくづくに度し難い腐りきった行い。 だが仕方ないだろう。彼は彼女とは違い、人を救う魔法使いなどではない。 己は獣。壊す事しか出来ない、それしか能のない、どうしようもなく馬鹿でクズでロクデナシな、救いようも無い……そんな存在に過ぎない。 だからこそ、なのはと同じ事など出来ない。出来る筈もないし、するつもりだってない。 そんなどうしようもないカズマに対して―― 『――貴方には、心底失望させてもらいました』 吐き捨てるように、忌々しく、レイジングハートがそんな言葉を告げてくる。 口を開けばこちらに対する罵詈雑言……ムカつくが、もう聞き飽きた。それにこれで最後かとも思えば、むしろ好きに言わせてやるかとカズマの中では奇妙な余裕すら生まれていた。 『貴方は、こんな逃げで全てを許されるなどと思っているつもりですか?』 「さぁな。けど関係ねえ。……それに、もうどうでもいいんだよ」 意地も信念も、宿敵も喧嘩も。 失ったものも残ったものも、背負ったものも捨てたものも。 あれだけ拘り続けた何もかもが、まるで色褪せるかのように今のカズマにはどうでもよく感じられていた。 そういうのに一々煩わされることすら……疲れた。 「テメエらが俺を憎むのは勝手だし、どう思おうが自由だ。……けどな、こんな無様に死に損なっちまった俺にも、願いたいものが一つだけあるんだよ」 正確に言えば、八ヶ月の前のあの時に、なのはが死んだ時に“シェルブリット”のカズマもまた死んだと思っていた。 少なくとも、皮肉にも頑丈すぎた肉体は兎も角としても、精神の……心の方は、大事な芯があの時に折れてしまった。 だから、“シェルブリット”のカズマは、あの戦いで高町なのはに負けて死んだ。 今無様を晒し続けているのは単なる残骸。いつかは消え行くはずの残滓も同じ。 だからこそ…… 「贖罪……なんて言えねえが、それでも無様晒していつかは惨めに死んでいくのが、まぁ似合いの末路だと思ってた」 誰も自分を知らない場所で、誰にも必要とされず、誰にも価値を見出されず。 孤独に無様に……出来るだけ、痛みを感じながら死んでいこう。 それくらいはしておかないと、君島にもなのはにも、くたばった時に合わせる顔もないと、そう思っていた。 「……けどよ、やっぱどれだけ捨てようが、逃げようが――」 ――過去って奴は、俺を放っておいてくれねえ。 当たり前といえば当たり前だが、この橘たちの唐突な来訪で改めて確信した。 忌まわしい誤算だが、けれど予期せぬ嬉しい誤算があったのも事実だ。 スバル・ナカジマ。そう、彼女という存在。 「テメエだって満足だろ? アイツなら……俺の首を取ったって」 相応しい資格と役どころ。是非もない。 それに、そんな彼女を見ていたらやはりどうしようもなく思ってしまうのだ。 やはり自分はどうしようもないクズであり、救い難いほどに骨の髄までアルター使いなのだと言うことを。 疼くのだ。欲しているのだ。 ああ、そう。命くらいくれてやる。別にもう惜しくも何とも無い。 だがその代わり―― 「――最期くらい、派手な喧嘩で死なせてくれよ」 そう、やはり獣は獣らしく、その死に様は戦いの中でこそ示したい。 本当にどうしようもない、最後の我が儘。 『カズマ、貴方は――』 「お喋りはもう終わりだ。――着やがった」 レイジングハートの言葉を強引に遮りながら、どこか嬉しそうに笑みすら浮かべながらカズマは待ちわびたように呟きながら、己が前方へと熱い視線を向ける。 颯爽と鳴り響き駆け抜けてくる車輪の音。 隠すつもりも抑えるつもりも毛頭ない、こちらに対して向ける惜しみも無い怒気と殺気。 ああ、気合は十分。その面も充分に様になっている。 カズマは静かに迎え撃つように拳を握りながら、心の内で向かってくる相手へと最初で最後の、そして最大の賞賛を贈った。 スバル・ナカジマ、テメエは俺の最期の喧嘩の相手には充分だ。 だからこそ―― 「――始めようぜ、喧嘩をよォ!?」 今はただ彼女に対して愛しさにすら似た歓喜を示しながら。 黄金の輝きを発する拳をもって獣は少女を迎え撃つ為に駆け出した。 「……カズ、マ……スバル…さ…ん………」 朦朧とする意識、霞む視界、激痛を訴える身体。 だがそんな状態ですら、橘あすかは黙って倒れているわけにはいかなかった。 上空で、空に架かった道の上で拳を交えた激しい戦いを繰り広げている両者。 止めなくてはならない。あんな戦いは二人のどちらにとっても救いにもならない。 それが橘にも理解できていた。だからこそ、無理矢理に限界に達した体に鞭を打ちながら橘は動き出した。 己がアルターで人体の代謝機能を高め、自己治癒能力を促進し、負傷を治療しようともしたが……やはりダメージがダメージで気休めにすらなりはしない。 一歩進んだ先には倒れそうにもなりながらも、それでも歯を食いしばって激痛に耐えながら橘は歩みを進める。 二人の……こんな悲しい戦いを、一刻も早く終わらせる為に。 ――スバルは、どうして強くなりたいの? あの日、あの時に問われたその問い、その意味をスバルは忘れていない。 憧れの人であった高町なのは。 彼女に及ばなくても、役者不足でも、それでも彼女の後を継がなければならない。 彼女の代わりに、彼女の為に、彼女の望んでいた理想を叶えたい。 それは今も変わらない。四年前からずっと抱いた憧れと共に、もう届かなくなったからこそに、傍には居てくれなくなったからこそに、尚更にスバルはなのはという憧れを強く求めていた。 求め続けていた。 だから、なのはさん。心配しないで見ていてください。 時折、ふと幻のように瞼の裏や脳裏、そして夢の中で自分を見つめてくる彼女の姿。 いつからだろう、彼女の姿……その幻を見るようになったのは。 思い返してもよく思い出せないが……まぁ、それはどうでもいい。 むしろ、嬉しいくらいだ。居なくなったはずのなのはが、ずっと自分の傍に居てくれる。見守っていてくれる。 これほど心強く、嬉しい事もない。……情けないところや失敗などを見られないかと、少しだけ冷や冷やする事もあるが。 けれど概ね、そんな事はどうでもいいくらいに、嬉しさが勝るのは事実。 だからこそ、ちゃんと見ていてください、なのはさん。 そして……笑ってくれると嬉しいです。 あたし、頑張ります。 頑張って、なのはさんの代わりに、なのはさんになって、なのはさんのしようとした事をやり遂げて見せますから。 この男だって直ぐに斃して、仇だってちゃんと討ってみせますから。 だから、安心してみていてください。 あたしは絶対に、なのはさんになってみせますから。 ……だから、だからもう少しだけ、もうちょっとだけで良いですから。 そんな哀しそうな眼であたしを見ないでください。 もっと、嬉しそうに笑ってください。 あなたが笑ってくれれば、あたしはきっと何だって……何だってしてみせますから。 ちゃんとあなたにだって成りきれます。 ……だから、なのはさん。お願いだから…… ……そんな眼で、あたしを見ないでください。 ……そんな哀しそうな顔、しないでくださいよ。 お願いです。お願いですから…… もう一度、お願いですから笑ってください……なのはさん。 地の利は駆け抜けるスバル・ナカジマにあったことは激突当初から明白だった。 至極当然、何故ならば両者の足場はウイングロード。空を飛べぬスバルが、彼女の力で空を飛ぶために代用する翼。彼女だけの魔法なのだ。 土足で勝手に上に乗って駆け回っていようが、カズマがその場を間借りしているという事実は変わらない。 「――チィッ!」 思わず忌々しい舌打ちがカズマの内より漏れる。これでもう何度目か。一々数えるなんてしていないが、それでもそろそろ十には達している事だろう。 酷く鬱陶しい。カズマの現状を評するならばその苛立ちだけが全てだった。 その理由、その原因、カズマが思うように苛立たせるスバルの戦法。 一瞬で駆け抜けて間合いを詰めて放たれてくる拳の一撃。 カズマはそれをシェルブリットの纏う右手で防ぐ。 彼の防御と同時、直撃か否かの結果すらも関係なくそのまま通過して行く少女の影。 その後ろ髪でも掴むように咄嗟に振り返り様に手を伸ばすが、空を切る。 忌々しい空振り。蹈鞴を踏むような強引な振り返りから体勢を整え直そうとした瞬間だった。 今度は下方から生まれた新たな道を駆け上るように迫ってくる相手の強襲。 放たれるリボルバーシュート。咄嗟に右腕を翳して防ぐも――右腕がそのまま衝撃で上へと弾かれる。 そこを狙い済ましたように接近。そのまま彼女の拳が抉りこむようにカズマの体へと叩き込まれる。 魔力を纏った拳――ナックルダスター。 その威力は防御云々に関係なく並の魔導師ならば叩き潰せる威力を有する。 常人離れしたカズマの耐久力を以ってしても、効く。それは変わらない。 だがカズマが苛立つのはそんな相手の攻撃の直撃ではない。 一撃を入れると同時、スバルはそのまま飛び離れるようにその場から離脱。新たな道を作ってそちらに飛び移り、カズマの拳が届かぬ範囲にまで距離を取る。 ――ヒットアンドアウェイ。 決して深追いはせず、有効打を決めたら即座に相手の反撃を生じさせぬ為に離れるスピード戦。 彼女の修めた格闘技――シューティングアーツの真骨頂。 「……テメエら、本当にやり方まで同じじゃねえか」 高町なのはの魔弾がスバル・ナカジマの拳に代わっただけ。 遠距離が瞬間的に距離を詰めてのインファイトと代わっただけなのだが……カズマにしてみればより不愉快この上なかった。 仮にも得物を同じ拳としてくるならば、チマチマとした連打なんかで来られても面白くも何ともない。 ましてや先の橘あすか同様の劣化焼き直し……正直、飽き飽きもいいところだ。 「……そいつはもう――飽きたんだよッ!」 カズマの苛立ちとは攻撃が当たらない事でも、戦いのイニシアチブを握られている事でもない。 最後の命を懸けた大喧嘩。獣の喰らい合いに賢しい知恵を入れ込んだツマラナイ策を相手が持ち込んできたというその事実。 ましてや―― 「そんなんじゃあ……何の意味もねえだろうがッ!?」 カズマは思う。コイツは本当に自分に勝つ気があるのだろうかと。 高町なのはの仇を討つ……本当にそんなつもりがあるのか。 こんな戦法、何百何千繰り返されようが、こちらとしては脅威でも何でもない。 力づくで突き崩す。策も理屈も常識も関係なく、カズマがその気になって行おうとすればそれは可能だ。 あの高町なのはですら、力の上では結果的にそれに屈していた。 ましてやあの女にも数段劣る小娘が、同じやり方でそれで仇を討てると本気で思っているのだろうか。 だとするならば度し難い。許し難いと吐き捨てたいとすら思う。 もし本当に、このままこんな水を差すような行いしか出来ないと言うのなら…… 「……だったら、テメエにくれてやる首は無えよ」 この首、この命、差し出す事にすら値しない。 無意味で無価値……この小娘は己が求めていた存在ですらなくなる。 だとするならば―――――もう、いい。 「――消えろよ、テメエ」 いや、この手で即座に消してやる。 そんな苛立ちと共に、カズマはスバル目掛けて疾走。自身が乗っていた道から飛び降り、彼女の乗っている道の上へと着地し、そのまま駆ける。拳を振り上げ、彼女を目指して。 そんなカズマからの特攻に対し、スバルはその場で迎え撃つ――などという手を取るはずも無く、即座に車輪を火花を散らして回しながら疾走。 ウイングロードを形成。その道は側面から回り込むようにカズマを狙う彼女が駆ける彼女だけの道。 疾走速度は初動を後手に回そうがスバルが上。即座に新たな道を駆け抜けながら向かってくるカズマの背後へと回り込む。 ラリアットのように無理矢理にその身を捻りながら振り回してくる豪腕。しかし単純な大振り、難なくバックスウェーを用いながら躱したスバルは、カウンターを狙うように拳を叩き込もうとし―― ――瞬間、カズマの口元がニヤリと歪む。 「――――なッ!?」 スバルが直後に思わず驚きの言葉を漏らしたのも無理はない。 なんとカズマはスバルが拳を叩き込んでくるよりも先に、その自らの身を振り回した反動を利用して、そのまま身を投げ出すかのように飛んだのだ。 当然その先、スバルが形成するウイングロードなどあるはずもない。 身投げ? 咄嗟にスバルの脳裏へと過ぎった不可解さを顕にする疑問。まさか、こちらが親切にも道を形成してやるとでも勘違いして―― 『――相棒ッ!』 「――ッ!?」 咄嗟に怒鳴るようにマッハキャリバーから飛んでくる警告。 それだけでなく反応するよりも先に、マッハキャリバーが勝手に引っ張るように自分の体を後ろへと飛ばす始末。 ――だが、このデバイスの機転がスバルを窮地に陥りかけたのを救ったのは事実だ。 直後、その瞬間までスバルの頭があったその空間を薙ぎ払うかのように振るわれる何か。 拳――そうスバルがそれを認識すると同時に、それに続く先へと視線を向ければ、 「――チッ、外したか!」 忌々しいとその結果に苛立つかのような舌打ちを見せるカズマ。 その姿、その足は彼女の作るウイングロードの上にはついていない。 騒々しい回転音を鳴らしながら、ヘリのローターのように背中の巨大な風車を回転させて飛行している相手の姿。 そう、別にカズマはトチ狂った身投げなどを行おうとウイングロードの上から飛び降りたのではない。 シェルブリット第二形態――この状態のカズマは“飛べる”のだ。 消えたり増えたり邪魔をする不安定な足場――地に着く喧嘩こそが本望ではあるが、完全に阻害要因にしかならない足場ならば、そこに拘る必要は無い。 それに何より―― 「他人の敷いたレールの上ってのは――性に合わねえんだよッ!」 ニヤリと傲岸不遜な笑みと言動と同時、そのまま弾丸のような速度でスバルを目掛けて突撃してくるカズマ。 ――速い! その射線からの回避は不可能。咄嗟に判断したスバルがならばと行うのは当然ながらの防御。 しかし―― 「――温いんだよッ!」 「―――ッう!?」 展開する防壁。そして戦闘機人の頑強さを合わせた防御姿勢。 それすら物ともせずに力づくで叩き壊し、弾き飛ばすカズマの拳。 そう、この拳は管理局屈指の重層型魔導師である彼女、鉄壁とまで謳われたそれすらも打ち破り、下したものなのだ。生半可な防御が通用するはずなどありはしない。 殴り飛ばされ、スバルはそのまま宙へとその身を弾き出された。足場が無い。この高度、落ちれば彼女と言えど命は無い。 咄嗟に無我夢中でウイングロードを再展開。その上へと何とか着地。 しかし束の間の安堵すら与える事も許さない、そう言うかのように真上から間髪入れずに叩き落されてくる獣の拳。 咄嗟に飛び躱すも、その拳は地面ならぬウイングロードをそのまま力任せに砕く。 それによる再びの足場喪失。慌ててウイングロードを再展開。今度は再び平面方向ではなく、先の不意打ちと同じようにカズマを目掛けて。 近距離から叩き込まれてくる空の架け橋。カズマは鼻を鳴らしながら嘲笑うように軽く身を避けてそれを躱そうとするも―― 「――なっ!?」 今度は驚いたのはカズマの方であった。 彼の油断――それは彼女の生み出すその道がただ真っ直ぐにしか伸びてこない、そんな認識を抱いていたこと。 しかしそれは大きな間違い、度し難い勘違い。 弛まぬ訓練、錬度を上げたその性能は、翼の道の生み出す軌道を螺旋状などという複雑な形で生み出す事すら今のスバルならば可能。 油断して僅かに身をずらした程度――その傲慢な横っ面に軌道変換で叩き込んでやる事くらいは訳は無い。 事実、スバルの目論見どおりに、カズマにとっては実に不愉快な形でウイングロードの先端はカズマを叩き飛ばすように直撃。 その好機を逃さぬというように、即座にスバルは標的に迫るその道を流星の如く駆け抜ける。 ウイングロードの先端、カズマがいるその先へと跳躍。無謀なダイブも同然。 しかしスバルに迷いや躊躇いは一切無い。保身すらも無かった考え無しですらあったのかもしれない。 兎に角、そのままスバルはウイングロードから標的のカズマへと我が身一つで飛び移る。 小娘とはいえ人間一人分の体重。ましてや彼女は戦闘機人。しかも頭を取っての上からの突撃だ。さしもの馬鹿力のカズマとて支えきれるはずもない。 なまじ高度を上げすぎた洒落にならない高さというのもある。落ちれば……どちらが上か下かで関係なかろうとそれこそタダで済むはずがない。 道連れの……破れかぶれかのような心中。カズマとしては冗談ではない。形振り構わないこと事態は構わない……が、それで簡単に死んでやるつもりなどない。 命を取りにくることは望むところ。敗北による死――それを望んでいる事には変わりない。 けれど全力の喧嘩、死闘による終焉を望む以上は、体が動くその内は逆に相手を殺すつもりで最後まで抗わせてもらう。 であるならば、カズマのやるべき事は決まりきっていた。しがみ付いているスバル……この女を地面に墜落しきるより前に振り払う。ただそれだけだ。 どれだけしがみ付かれようが、女とは思えぬ常人離れした戦闘機人の怪力だろうが関係ない。拳で叩いて引き離す。何発だろうが、何十発だろうが、落ちる前に叩き込んで引き離す。 その為に拳を振り上げようとしたその瞬間だった。 密着したその状態から、スバルの拳がカズマの腹へと添えられる。拳と腹は触れている。1インチどころか密着だ。この状態から拳を押し込んだとしてもたかが知れている。それとも、ここから一度拳を引いて腹を目掛けて叩き込んでくるか。 ……面白い、どちらにしろならばこちらはそれに合わせてこっちも拳を叩き込んでやる。そうカズマは決めた。そちらの拳がこちらの腹を殴ってきたと同時にカウンターで彼女の顔面にこちらの拳を叩き込む。 我慢比べ、どっちが押し負けて屈するか。そんな勝負だとカズマが決めてかかったその瞬間だった。 ――カズマの全身に、まるで体がバラバラに粉砕されるかのような震動が叩き込まれる。 あまりの衝撃、あまりの威力、耐える覚悟も固めていない状態での予想を遥かに上回るダメージにそれこそカズマの意識は飛びかけてすらいた。 これは……一体………? カズマの朦朧とする意識の中で、間近に迫る黄金の瞳が冷め切った視線を持ってこちらを射抜いてきていた。 ――IS『震動破砕』 戦闘機人――タイプゼロ・セカンドたるスバル・ナカジマが保有する接触兵器。 本来ならば対人使用が禁じられているその禁を、彼女は破り、使用したのだ。 標的の内部へと直接に震動を叩き込み、破壊するその能力。 人間離れした異常な耐久力を誇るカズマであろうが無事に済むはずもない。 ましてや、前情報も何一つ無い、彼からすれば今までに体験したこともない未知のダメージによる不意打ちだ。 有効打……今までに例の無い、圧倒的な有効打であったことは間違いなかった。 スバル自身にとっても、初めて明確な『殺す』ことを目的として叩き込んだ一撃だ。これで効かない筈がない。 もはやカズマ、相手を殴るどころか拳を握る事すら……否、意識を完全に手放さずにいることすら精一杯と言って良い状態だった。 「――堕ちろ」 地獄に。そしてその底からなのはさんと君島さんに詫び続けろ。 吐き捨てるように、蔑視も顕に冷たく告げながら、カズマの体を更に蹴り込んで、下へと落としながら、スバルはその反動を利用して離脱。ウイングロードを即座に展開してその上へと着地する。 あんな下衆と心中するつもりは毛頭ない。ただ当然の裁きを下した執行官の如くに、スバルはそのまま落ちゆくカズマの末路を見届けるように上空から見下ろし続ける。 眼下、落下する獣はこちらへと届くはずも無い手を見苦しい最後の足掻きのように伸ばしながら、大地へ向かって落ちていった。 ……完全な誤算。 効いたなんてものではなかった。実際、今までに喰らってきたどの攻撃よりも直接に、スバルの繰り出してきた攻撃はカズマの内部へと響いていた。 体が言う事をきかない。急速な地面への落下を続けていくその最中で、朦朧としたカズマの意識が認識していたのはその程度のこと。 やはり、慣れない事はするものではない。 所詮は獣。見っとも無く地に這い蹲って足掻く以外の術を持たぬはずの身で、あの女の領分で戦おうなどとしているからこのようになる。 最初から分かりきっていたことだろうに。 (……俺には、翼なんて無えってのに……) そんなものも無いのに、調子に乗って飛ぼうなどと身の程知らずなことをするからこうなる。 この墜落は自業自得。……何て事はない。ただそれだけのこと。 (……空を飛べば、このクソったれた大地から逃げられるとでも思ってたのか?) そんな都合のいい事あるはずがないだろうに。 結局、やはりどこにも逃げ道などありはしない。 何処へ逃げようが……逃げられない。 過去は、罪は、因縁は、この大地は。 この身から手を離すことなど許すはずがないのだ。 (……分かってたっての。それくらいはな) 分かっていたが足掻いた、反逆した。 けれど……この反逆は届かなかった。 それだけのこと。ああ、それだけのことだ。 そして、この結果は高くつきはしたが、それを思い知らされた授業料も同じ。 いいぜ、ちゃんと受け入れてやるよ。 だが、その支払いは―― 「――まだ、ツケといてもらうぜッ!」 まだ、まだ戦いきっていない。 まだ、輝ききっていない。 まだ、燃えつききっていない。 だから――もう少しだけ、足掻く。 満足して、最後に果てるその為に――ッ! 瞬間、もはや地面に直撃目前となったその距離で、カズマは不自由な体に無理矢理鞭を打ちながら精一杯に命じる。 全身なんて贅沢は言わない。拳だ、拳を握って振るえる力だけでいい。 それだけあれば――まだ反逆できる! そんな意志も顕に、抗うように獣の咆哮。そして無理矢理に振り返ると共に目前に迫る地面へ向けて、むしろ自ら振り被るように殴りかかった。 放出するアルターの煌き。粉砕し、抉り取られていく地面。 自前のクレーターを、常識外れのサイズで作り上げながら、その中心にカズマは叩きつけられるように落下した。 全身がバラバラになるかのような衝撃。吹っ飛びかける意識。 だがそんな中で、無理矢理に意識を引き止め、痛みすら麻痺した体を痙攣させながらも、カズマは、空を仰ぐように寝転がりながら、笑っていた。 ――死の運命からの反逆。 生き残ったというその結果。それはつまり―― 「……まだ……まだ……これ、から……だッ!」 そう、喧嘩はまだ終わっていない。 「――なッ!?」 眼下で起こった呆れるほどに非常識なその光景、それを目撃したスバルは思わず絶句する。 当然だ。あのまま無様に落下して石榴のように弾け飛ぶのが当然であったはずの相手が、あんな非常識な悪足掻きで生き残ったのだ。 そうまでして足掻く。 そうまでして生にしがみつく。 ……何と浅ましく、そして無様な事か。 なのはや君島を死に追いやっておいて、まだ自分だけはのうのうと生き汚く、抗い続けるなど……ッ! 「……ふざ……ッ……けるなぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」 咆哮と同時、カズマに向かうウイングロードを形成。滑降というよりはもはや落下に等しい角度と速度でカズマを目掛けて突撃。 漸くに震えながらも立ち上がりかけたその相手を、その顔を容赦なく殴り飛ばす。 もんどりうって再び地面へと倒れるカズマ。 しかしスバルは追撃の手は緩めない。そのまま飛びかかって倒れたカズマの腹部へと膝を全体重を込めて叩き落す。 流石に昆虫標本のように縫い付けられたかのような追い討ちには、カズマも喀血しながら悶絶。 しかし、スバルは止まらない。止まるはずなどない。 そのままマウントを取ると同時に、カズマの顔を目掛けて両の拳を何度も何度も叩き込む。 途中、カズマも反撃するように何発か殴り返してきたが、マウントを取られていることと連戦によるダメージと疲労も合わさってか、その拳はもはやスバルの猛攻を断ち切るだけの威力を有していない。 「お前がッ! お前がッ! お前がぁぁッ!」 憎悪に猛るスバル。その怒りと憎しみに塗り固められた表情は、只管にカズマを睨みつけるように見下ろし、その振り下ろす拳にも一切の呵責などありはしなかった。 「返せ! なのはさんをッ! 君島さんをッ! あたしから奪ったものをッ!」 その黄金の瞳、憤怒と憎悪しか対象に向けるものはないそれから零れ落ち続ける涙は、拳と共に次々とカズマの上へと落ちていく。 「全部ッ! 全部ッ!……あたしから奪ったものを……返せよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」 只管に、只管に、スバルはカズマを殴り続けながら叫ぶ。 その激情を、その願望を、その無念を。 相手に向かって叩きつけるように。 『相棒ッ! 止めてください! これ以上は本当に――』 戦闘機人の腕力で力任せに人間の頭部を殴打し続ける。 下手をすれば……否、下手をせずともこのままでは本当にカズマを殺してしまう。 それを危うんだマッハキャリバーが思わず制止の言葉を再び上げるも―― 「……返せよ………返してよぉ……ッ!」 スバルはそれに応じない。否、マッハキャリバーの言葉は今の彼女には届いていない。 こうなったら無理矢理にでも、そう思い自らの判断で強制的に介入して彼女をカズマから引き離そうと、実行しようとしたその瞬間だった。 カズマへと向けて振り下ろそうとした彼女の拳。 それを後ろから腕ごと掴んで止める手。 マッハキャリバーも、そしてスバルも驚いたようにビクリと一瞬制止した。 その硬直の間を縫うように、擦れながらも穏やかな声が彼女へと告げられてくる。 「……もう、いい。……やめるんだ、スバルさん」 その声の主へと応じるように、スバルはそのまま首を廻らせ振り向いた。 その視線の先、己の手を掴んでいるその人物は、ただ優しげな視線を向けながら振り向いた彼女へと首を振った。 自分だってボロボロで、立っているのが精一杯のはずなのに、それでもそれを必死で隠すかのように耐えながら、彼女をこれ以上興奮させないように落ち着かせるように。 橘あすかはスバル・ナカジマへと出来るだけ穏やかに優しく告げる。 「もう、いい。……もう充分だ。それ以上は駄目だ……スバルさん」 彼女がカズマを殺すということ。 カズマが彼女に命を奪われる事を危ぶんで言っているのではない。 「……誰も、君がそんな形で手を汚す事は……誰も望んじゃいない」 自分も。 桐生水守も。 ストレイト・クーガーも。 マッハキャリバーも。 君島邦彦も。 高町なのはも。 それに――スバル自身も。 「きっと……そうすれば、君自身が後悔するよ」 「……勝手に、決め付けないでください」 橘の言葉を、そして掴んだ手を振り払うようにスバルはそれを斬って捨てて首を振る。 正論なんかいらない。綺麗事なんて沢山だ。 理屈じゃない。復讐は理屈なんかでやってられない。 それに―― 「ここで、こいつを……ッ……さないと、あたしは、あたし自身が許せなくなるんです」 そう言いながら、スバルはしかし苦虫を噛み潰すように悔しげに橘から顔を逸らす。 ”殺す”、その直接的表現をどうしても口に出して言えなかった。 心の中でなら吐き捨てるように言えるのに、現実に言葉に出すにはどうしても抵抗があった。 その言葉を口にしようとすると、何故か視界の端のなのはの幻が哀しそうな顔をするから。 それは結局、どこまでいこうがスバル・ナカジマの根っこが善人でしかないという証。 一線をどうしても越えられないことを突きつけられているかのようで、どうしてもそれが歯痒く、認められずに拒んだ。 けれど、そんな彼女の本心を橘もマッハキャリバーも気づいていた。 彼女に人は殺せない。殺す事などできない、殺させてはいけない。 何故なら―― 『――相棒、嘘を吐いてはいけません』 「――ッ!? う、嘘なんかじゃない!」 マッハキャリバーの指摘に、スバルは慌てたように頭を振りながら否定を示す。 嘘じゃない。嘘なんかついていない。 ここでカズマを殺さないと、きっと、いや、絶対に自分は後悔する。 仇を討たないと、なのはや君島にも顔向けできない。 そう、自分がやらなければ。他の誰でもない、自分が…… 「いいや、それは嘘だ。だってスバルさん、君は今――」 ――泣いてるじゃないか。 「……え?」 橘からのその指摘に、スバルは訳が分からないといった様子で自らの頬へと手を伸ばす。 指先に感じたのは、確かな湿った生温かい液体の感触。 涙……それ以外の何ものでもないそれ。 それの確認と共に、スバルは益々に慌てる。 「え?……な、なんで? あれ、おかしいな……あたし、別に悲しくなんてない……悲しくなんて……全然、そんなこと……あるわけ……」 そう慌てふためきながら必死に言い訳の言葉を並べ立て続けるスバル。 しかし真剣な表情のまま、橘は静かに無言で首を振る。 スバルの言い訳を否定するように。 「……違う。……違うッ! 違う違う違うッ! あたしは……あたしは、こいつを、こいつを……ッ……さなきゃ、……ッ……さなきゃ、いけなくてッ!」 どうして、どうして言えないのか。 “殺さなきゃ”……そう言えばいいだけなのに、なんで自分はそれを言葉に出来ない。 いや、どうしてそもそも何でこんな言い訳をしなければいけないのか。 違う、言い訳じゃない。殺す、殺したいんだ。殺さなきゃならないんだ。 あたしが、他の誰でもなく、あたしがやらなきゃいけないんだ。 「……あたしが……あたしがやらないと、あたしは――」 ――あたしは、なのはさんになれない! 決めたんだ。誓ったんだ。 他の誰でもない、彼女に。彼女の眠る墓前で自分が。 なのはの遺志を継ぐ。なのはの無念を晴らす。なのはのやろうとしたことを彼女の代わりに成し遂げると。 他の誰でもない、役者不足は承知の上。だがそれでも―― それでも―― 「……あたしは……あたしは―――――あの人にッ!」 憧れた、手を伸ばした、その背中を目指した、導いてもらったあの人に。 高町なのはに―――なりたいんだ。 高町なのはになって、彼女の理想を、夢を引き継ぐ。 そうしないと、そうしないと……彼女が何の為に死んだのかすら分からなくなる。 何の為に生きて、何の為に戦ったのかすらも分からなくなる。 意味を失ってしまう。価値がなくなってしまう。 そんなことは、認めない。絶対に……絶対に認めない。 だから、ここであたしがこの男を殺して、まずはやるべき事の一つを成し遂げて資格を得ないと。 彼女の後継者に……彼女自身になる資格を得なければ―― 『―――スバルは、どうして強くなりたいの?』 「………え?」 不意にポツリといきなりに聞こえてきたその声。 酷く覚えのある、忘れるはずもないその言葉。 マッハキャリバーでも、橘あすかでもなく。 まったく別のその声が、あの彼女の問いを再びに自分に突きつけてきた。 「……レイジング………ハート……?」 ポツリと、驚き信じられぬと言った様子でスバルはカズマの懐から地面へと転がり落ちたその宝石の名を呼ぶ。 よく見慣れた、戦場ではなのはと共に頼もしいとすら思っていた、他ならぬ高町なのはの魔法の杖。 どうしてレイジングハートが此処に? 否、そもそも何でレイジングハートがカズマなんかの懐から……? だがそんなスバルの疑問などどうでもいいと言った様子で、レイジングハートは構わずにもう一度同じ問いをスバルへと投げかけてくる。 他ならぬ、その魔法の杖自身の主が、かつて眼前の少女へと問うたその言葉を。 此処にはいない主に代わり、杖は問う。 『―――スバルは、どうして強くなりたいの?』 最後に残した主の『願い』……その一つを今、叶える時だと確信したから。 レイジングハートはその心中で問う。他ならぬ、この『願い』を残したなのはに対して。自分が取ったこの行動を。 (……マスター、これで良かったのですね?) 魔法少女の願いを叶える魔法の杖。 甚だ不本意でありながらも、それでも愚直に主の遺志を慮って、今自分がすべきことがこれで良かったのだと。 そして同時に思う。自分が出来るのはここまでだとも。 これ以上は、自分の領分ではないし、そもそもどうすることも出来ない。 後は、この言葉と主が少女へと伝えたかった本当の遺志。 それに気づき、汲み取る事が出来るかどうかは少女自身の問題。 自分はただ、それを静かに見届けよう。 『―――スバルは、どうして強くなりたいの?』 それは他ならぬ、あの日に高町なのはがスバル・ナカジマへと告げてきた問い。 機動六課の、否、管理局の魔導師として……否、高町なのはの教え子として。 ……否、そもそもスバル・ナカジマ個人としての、その目指すべき道、指針。 それが何なのか、そうなのははスバルに問うてきたのだ。 それに対して、己は何と答えたのだったのか……? スバルは思い出す。……否、思い出すまでもない。忘れてなどいない。ちゃんと憶えている。 一度だって色褪せず、諦めることなく、ずっとその願いを抱いて走り続けてきたのだから―― 地獄のような炎の中。出口なんて何処にも無い、絶望の底で。 何も出来ずに、誰にも助けてもらえずに、泣いてばかりだったあの時。 大好きな父と姉すらも傍にはおらず、独りぼっちで泣いてばかりで、命まで失いかけたあの絶望の中で―― 『良かった……間に合った。………助けに来たよ』 ――たった一人だけ、助けに来てくれた人がいた。 『良く頑張ったね、偉いよ』 本当は泣いてばかりで何も出来なかった。 蹲っていただけで、怖くて、何処へ逃げてもいいか分からずに立ち止まっていただけだった。 けれども、あの人はそう優しく言ってくれて、安心させるように頭を撫でてくれた。 その優しさ、その温かさ……今だって色褪せることなく憶えている。 『もう大丈夫だからね、後は―――安全な場所まで一直線だから』 そう告げて、その宣言通りに。 あの人は、地獄のような炎の中から、絶望の底から。 自分を………助け出してくれたのだ。 あの時の、彼女が自分を抱きしめて飛んでくれたあの夜空を、きっと自分は生涯忘れないだろう。 “炎の中から助け出してもらって、連れ出してもらった広い夜空。………冷たい風が優しくて、抱きしめてくれる腕が温かくて………” 不意に眼が合った自分へと、あの人は優しげに微笑んでくれた。 もう大丈夫だよ、とその目は優しくそして確かに告げていた。 “助けてくれたあの人は、強くて、優しくて、カッコよくて………” 救護隊へと引き渡され、担架で救急車へと運ばれる中、夜空を見上げれば先程自分を助けてくれたあの人が、再び現場へと飛んでいく姿が目に映った。 自分を助けてくれただけでなく、まだ残っている多くの人を助ける為に。助けてみせると決意と共に向かっていったその雄姿。 助けてもらうばかりで何も出来なかった自分とは違う……誰かを助ける力を持った、誰かを助けられる強くて優しい人。 ――その姿に、憧れた。 純粋に、綺麗だと、カッコいいと、そして自分とはまったく違う人なんだと思った。 自分も……あんな人になってみたい。 憧れの芽生え。そして進むべき道の選択。 それから四年――只管に、ただ前だけを見て、あの背中を追い続けた。 いつか絶対に、あの人とまた逢いたい。その背中に追いついて認めて欲しい。 そう思って駆け抜け続けた先で―― 『なのはさん、でいいよ。皆そう呼ぶから。………四年ぶりかな、背伸びたね、スバル。 また逢えて、嬉しいよ』 一救助者に過ぎなかった、あの日に道がすれ違った相手である自分なんかの事を、あの人は憶えていてくれて……。 嬉しかった。本当に……嬉しかったのだ。 どんな奇跡か、それからあの人と同じ部隊で、あの人の教え子になれたこと。 本当に……本当に、夢の様な日々だった。 そんな満たされていた中で、自分の目指す未来――その夢を問いかけてきてくれたあの人に、自分はこう答えたではないか。 誇りを持って、あの人にもきっと伝わると信じて―― 『災害とか争い事とかそんなどうしようもない状況が起きた時、苦しくて悲しくて助けてって泣いてる人を助ける人になりたいです。自分の力で―――安全な場所まで、一直線に!』 あの日、あの時、あの瞬間に。 自分を助けてくれたあの人と同じように。 スバル・ナカジマが誰よりも憧れた高町なのはと同じように―― ――あたしは、誰かを助けられる人になりたかった。 あの人――高町なのはがそうであったように……。 「…………ぁ」 原点に回帰したその答え。憧れの始まり。綺麗でカッコよかった姿。 スバル・ナカジマの憧れだった高町なのは。 スバルが本当に……本当に憧れた彼女は―― ――人を憎しみで殺すことを良しとする人間だったか? ……違う、違う違う違う違う違うッ! 高町なのははそんな人間ではない。誰かが傷つくことを、悲しむ事を良しとしない人間だ。 誰かの為に、誰かを護る為に、誰かを助ける為に戦う。 ……そういう、人だった。 「……あたし……は………」 ここでこの男を殺す事をなのはが望むのか? ――否。 なのはが敵討ちと称して自分が手を汚す事を彼女が望むのか? ――否。 誰かを殺める事が彼女の目指した理想なのか? ――否。 ここで自分がこの男を殺せば、それで本当に彼女の理想は叶うのか? 「……ち…が……う……」 ボロボロと瞳に再び涙を溢れ返しながら、スバルは途切れ途切れの呟きと共に首を振った。 違う、ああ違うんだ。 彼女の理想は、願いは、こんな事をしても叶わない。 こんな事をしてしまえば、叶わなくなる。 ここでこの男を……カズマを憎しみで殺してしまったら―― ――きっとなのはは、二度と自分に微笑んでくれなくなる。 それが分かった。気づいてしまった。 最初から答えは見えていたのに、目を逸らして気づかない振りをしていた。 けれど……もう、それも出来ない。 してはいけない。 それが分かったから、分かってしまったから―― 「――それでいい。それでいいんだ、スバルさん」 『……よく我慢してくれました、相棒』 いつの間にか、カズマの上に乗っていた状態から彼の上から退き、そして優しく橘が後ろからスバルの肩に手を置きながら告げてくる。 そしてそう言ってくる橘の声に続くように、マッハキャリバーからの声。 ……もう、限界だった。 「ああぁぁ……ッ…あああああああああああああぁぁぁぁぁ!」 しがみ付くように橘に振り返って抱きつき、その胸へと顔を埋めながらスバルは声を上げて泣き始めた。 橘はそんな彼女を優しく抱きしめ返しながら、この一時、彼女が泣きやむその時までこのままでいてやろうと静かに決めていた。 彼女は……よく頑張った。 他の誰が愚かと嗤おうが、自分やきっと水守たちはそうは思わない。 他の誰が何と言おうと、スバルのこの決断とこの姿を橘は尊いものだと思った。 それはきっと―― 「――貴女もそうなんじゃないんですか?」 直接的な面識は一度だってない、スバルの師であり水守の友であったというその人。 自分はその彼女のことなど伝聞以上のことは何も知らないが、それでも敢えて、もし天国からでも今のスバルを見ているのならば、今のスバルを褒めてやって欲しいと思った。 それくらいの想いは、きっと許される。 そう思いながら、自分の胸で泣き続けるスバル・ナカジマを橘あすかは静かに優しく抱きしめ続けた。 『……これが、どうやら彼女の貴方に対する答えのようですね?』 レイジングハートのその言葉に、何だそりゃと不快気にカズマは鼻を鳴らす。 眼前で自分そっちのけで好き勝手に行われている、自己に酔ったお涙頂戴の滑稽な小芝居。 ……下らない、ああ、下らない。 「……何だ、そりゃ……?」 命を捨ててもいい最後の大喧嘩だと思っていたのに。これで漸くに果てる事が出来ると確信していたのに。 ……ふざけんな。ああ、ふざけんな! 勝手に人を蚊帳の外にしてテメエらだけで納得すんなよ。 テメエらだけで救われんなよ! 何だよ、そりゃあ……何だってんだよ。 ずりぃ、ずる過ぎるだろテメエら。 それで納得すんのは勝手だけどよ、だったら―― 「――だったら、俺はじゃあどうすりゃあ良いんだよ?」 どうしたら、どうすれば、この苦しみから解放されるのか? この十字架を下ろす事が出来るのか。 いや、そもそも、お前らじゃないんなら、誰が―― 「……誰が、俺を殺してくれるんだよ……?」 なぁ、教えてくれよ。 誰でも良い、誰でも良いから。 おい、誰か―― 「……君島………なのは………」 ……かなみ。 俺は、いつまでお前らを背負い続ければいいんだよ。 分からねえ。分からねえよ。 もう……背負いきれねえんだよ。 そうして、その死闘は終わりを迎えた。 勝者はおらず、敗者ばかりが残ってしまった滑稽で無様な幕引き。 誰かの心が或いは救われ、或いは絶望に染まったかは、それは結局は当人たちのそれぞれの受け止め方次第だろう。 けれど、それでも一つだけ己なりに受け止めた結論があるとするならば…… 「……私は、スバルさんが最後に選んだ選択は、それで良かったんだと思います」 桐生水守が本心から思い、言える事があるとすればそれだけ。 彼女の手を汚させる事を厭んだ利己的な思いなのかもしれない。 綺麗事に過ぎないと、余人から鼻を鳴らして嗤われる様な決断だったのかもしれない。 けれど、それでも桐生水守はスバル・ナカジマの選んだその答え、そして彼女の心を尊んだ。 かつて、友達であった高町なのはが自分に見せてくれた強さと同じように。 スバルの決断もまた、強いものだと思った。 ……何も出来ない自分とは、それはきっと違う事だから。 結局、自分は今回、何も出来なかった。彼らの何の助けにもならなかった。 ただ、スバルたちが無事に帰ってくるのを祈っていただけ。 そして帰ってきた彼女たちを、泣きながら抱きしめたそれだけだった。 だからこそ、改めてこの一件を振り返り、水守に残っていたのは自己嫌悪、ただそれだけだった。 自分は何も役立てていない。皆の足を引っ張っているだけ。 ……これでは、なのはやクーガーの善意を押し切ってまでどうしてこの大地へと残ったのか。 (……なのはさん、私は……) いなくなってしまった新しい友達。 せめて立派だった彼女の、彼女の友として恥かしくない生き方を貫きたいと思っていた。 だというのに、この様では本当に彼女に顔向けすら出来なくなる。 己に対しての無力感……水守はそれを呪わずにいられなかった。 そんな自己嫌悪の真っ只中な時に、夜空を見上げていたその時だった。 「……あの、水守さん」 不意に背後からの己の名を呼ぶその声。 水守は振り向く、そこには申し訳なさ気な表情も顕にしたスバルが立っていた。 「……スバルさん? どうかしましたか?」 「あ、いえ……はい、水守さんにもちゃんと謝っておきたくて」 今回の騒動、己の短慮な行動が起こしてしまったその結果。 水守と橘まで危険に巻き込み、挙句の果てには橘には大怪我を負わせてしまった。 あの場を離脱し、帰還した後、橘を二人で治療したとはいえ、当面、彼には無茶はさせられない状態だ。 それに下手をすれば、何の能力も持っていない水守すらも、橘と同じような状態に巻き込んでいたかもしれない。 そう思えばこそ、言葉の謝罪でどうなるとも言えないが、それでもスバルは彼女にもちゃんと謝らざるを得なかった。 「……本当に、本当にすみませんでした」 そう言って頭を下げるスバル。その姿に他意はない。あるのは本当に感じている後悔の念と申し訳なさ、そして誠意だけだろう。 だからこそ、水守はそんなスバルにただ首を振った。別に謝罪される必要は無い。むしろ水守からすれば逆にあの時に、何の役にも立てなかったスバルや橘に自分が謝りたかったくらいである。 だからこそ、謝罪なんていらない。 むしろ水守は、スバルに対して―― 「……ありがとう、スバルさん」 ――そう、礼を述べたかった程だ。 「……水守、さん?」 だがスバルからしてみれば彼女からの唐突なその言葉、意味が分からないのが当たり前。 故にこそ、怪訝そうな表情も顕にするスバルに、水守は静かに首を振りながら告げた。 「スバルさんがあの人……カズマさんに対して選んだ決断、あなたがそれを選び取ってくれた事に、私はお礼を言いたかったんです」 無論、それは悪趣味な皮肉や悪意としての言葉ではない。 ただ、己の憎しみによる感情ではなく、なのはの残した想いを尊重してくれた彼女に、水守はただ礼を言いたかった。 なのはが残した理想、夢、その想いは……まだ死んではいない。 他の誰でもなく、スバルがそれを護ってくれた。 それが水守には嬉しく、礼を述べたかった。 そう言えばと、水守がふと思い出したのはいつかのなのはとの会話だった。 他の機動六課の中で、スバルならば自分たちに共感して協力してくれるかもしれない。 彼女がスバルを信じていたその意味が、今水守にもまた分かった気がした。 だからこそ、水守は思う。 やはり高町なのはの遺志を継げるのは、後継者となれるのはきっとスバル・ナカジマだけなのだと。 しかし…… 「……でも、あたしは結局また間違えちゃいました」 ポツリと、先の水守の言葉を否定するように小さく首を振りながらスバルは言ってくる。 また間違えたのだ、と……。 「あたしは、なのはさんにならなきゃいけなかったのに……結局自分の感情が抑えきれずに、勝手な事をして、皆にも迷惑かけて……それに、また嘘で誤魔化そうとしたんです」 スバル・ナカジマは嘘が嫌いだ。 君島邦彦を死なせてしまった時、後悔と悲しみと共に今度こそと思っていたのに、今度こそ嘘で誤魔化さず、間違えないようにしようとしていたのに。 それすら出来ずに、また道を踏み間違いかけた。 同じ失態、同じ無様、同じ間違い。 これでは…… 「……やっぱり、あたしはもう、なのはさんにはなれないと思うんです」 彼女を目指して、彼女のようになりたかった。 彼女のように誰かを助けられる、不屈の魔法使いに。 そうなりたいと思っていた。八ヶ月前のあの時に、もう一度最後になのはからチャンスを貰えたはずなのに…… 結局、それも間違えてしまった。 なら自分などもう―― 「――スバルさん、それは違います」 しかしそんなスバルに対し、水守はハッキリとした、しかし何処か厳しい態度も顕にスバルの言葉に真っ向から否定を示す。 彼女の言葉、彼女の考え、それが間違いなのだと。 「スバルさん、あなたはなのはさんになれないと言いますが、そんな事は当たり前です」 「……そう、ですよね」 水守の言葉にそれも当然だと、どこか自嘲気味に同調しながら頷きを見せるスバル。 けれどそれが当たり前。自分などではそもそも役者不足。それは初めから分かりきっていたことで―― 「――だって、スバルさんはスバルさんじゃないですか」 代わりなんていないし、代わりなんていらない。 高町なのはもスバル・ナカジマも、それは等価値で当たり前のこと。 そう、当然のように水守はスバルへと告げてくる。 「え……?」 「スバルさんとなのはさんはそれぞれ違う人間なんです。それぞれの想いや生き方があって、それを貫いて今まで生きてきたはずです」 高町なのはには高町なのはの生き方があり、それを貫いて生きたように。 スバル・ナカジマにはスバル・ナカジマの貫いていく生き方がある。 それはとても似ていて、そして後を託されたものであるのかもしれない。 けれど、例えそうであろうと―― 「――だからこそ、スバルさんはスバルさんの生き方で、なのはさんの想いを継いで、それを成していけばいいんじゃないでしょうか」 全てが同じである必要は無い。 受け継ぐ事も背負う事も大事だ。だがそれが大事であるからこそ、 「スバルさんは、スバルさん自身を蔑ろにしてはいけません」 それは絶対に、後を託した高町なのはもまた望んでいないことのはず。 そう、後を引き継ぐ事と同じになる事は違う。 そんなものは後継ではなく単なるコピー。 そして、それではきっとなのはの想いもまた叶えられない。 「スバルさん、なのはさんは……あなたに何を望んだんですか?」 高町なのはに憧れること。高町なのはを目指すこと。 それはいい、そしてそうして師の遺志を引き継ぐ事が間違いだとは言わない。 けれど―― 高町なのはが本当にスバル・ナカジマに目指して欲しかったものは―― 『勿論―――なれるよ。……ううん、それどころかスバルに……スバルたちの胸に不屈の想いがあり続ける限り、いくらだって強くなれるよ。私を……私たちを並び超えていくことがいつかきっと出来る』 それはあの時に、もう一度、高町なのはを目指しても良いかと尋ねた時になのはがスバルへと返した言葉。 彼女が未来に夢を見た、希望へのその可能性。 スバルは気づく。あの時に、どうして彼女が嬉しそうに笑ってくれたのかを。 それはつまり…… 「……あたしは……あたしのままで、良いんでしょうか?」 高町なのはのような魔法使いになるには、高町なのはそのものにならなければならないと思っていた。 けれど、他ならぬなのはがそうではないと考えていたのなら。 そして、スバル自身が本当になのはに心の底から憧れていたというのなら…… 「スバルさんはスバルさんのままで、なのはさんの遺志を継いで、そしていつか彼女を――」 憧れた彼女。本当に遠くになってしまったその背中を。 ――追いついて、そして超える。 それが、スバルが本当に彼女の後継者として成し遂げねばならないこと。 けれど、それは何と―― 「……重たいな」 それこそ簡単に、支えきれずに潰れてしまいそうに思えるくらいに。 それはとても困難で、そして重いものだった。 だがそうだとしても―― 「――けど、誓ったんだ」 背負うって、捨てないって。 あの日、あの時に、他ならぬ高町なのはを前にスバル・ナカジマが誓ったのだ。 だからこそ―― 「――水守さん」 決意を込めて、スバルは水守へと視線を向けてそして告げる。 この日、この時、この夜に、そしてまずは彼女へと。 もう一度、はじまりの誓いをスバル・ナカジマはここで彼女に向かって立てる。 「――あたし、やってみます」 自分なりのやり方で、自分なりの想いと、決意と、その道で。 背負ったものの重さを、刻んだものの尊さをしっかりと認識しながら。 「あたしは――あたしなりのやり方で、なのはさんのような魔法使いになりたいんです」 その想い、その誓いを。 ハッキリとスバル・ナカジマは桐生水守を前に、そう告げた。 そして、その想いに対し、桐生水守もまた―― 「だったら、スバルさん」 彼女が立てたその誓いに負けぬ想いと、その決意を、自分もまた誓いとして立てよう。 高町なのはが認めてくれた友として、それに恥じないだけの誓いを。 「――私にあなたを支えさせてください」 他の誰でもなく、なのはの時には出来なかったそれを、今度こそはスバルと共に。 自分の想いも彼女に託し、そして彼女をまた自分が支える。 今、桐生水守に出来る精一杯のことを。 この大地の上で、こんなにも近い星空の下で。 桐生水守もまた、新たな誓いを立てた。 そして、少女たちがこの大地の上で新たな誓いを互いに立てていたその時。 終わりも見えぬ迷走を、獣は只管に続けていた。 『……これから、どうするつもりですか?』 相も変わらず親しみなど欠片もない、事実確認を問うレイジングハートからのその言葉に、しかしカズマは答えずに無言。 結局、失望と共に興醒めした茶番劇の後、自ら獲物ですらなかった連中を放って帰還したカズマは、当然ながら雇い主からのお叱りが待っていた。 尤も、そんなものは気にも留めていなかったし、どうでもよかった。 何より、そんな雇い主の命令を聞くだとか、顔色を窺うだとか、そんなものは既にカズマにとっては何の意味もないものに過ぎなかった。 カズマがわざわざ雇い主たちの元へと戻ってきたのは、再び穴倉の底へと戻る為などではない。 むしろ、居場所が知れてしまったここはもう駄目だ。過去は、罪は、因縁は、再びに自分に追いついてきた。 だから――逃げ出さなければ。 そう、此処にはもう居られない。 そもそも此処は……やはり、俺の居場所じゃない。 だからこそ―― 『……それで、これで本当に良かったんですか?』 この現状を問うレイジングハートの問い。しかしカズマはやはり応じぬままに無言。 取って返した帰還。そのままアルターの暴力で押し切って通した、金を寄こせという脅迫。 怯える雇い主から無理矢理に奪った金を手に、呼び止めてくる連中を一切無視、力で薙ぎ払いながら地下からの脱出。 後に残ったのは逃走による破壊と、疲労によって痛む右腕。 ……そして連中から奪い取った僅かばかりの金の残り。 奪い取ったのは結構な額だったのだが、その殆どは…… 『あの少年を連れてこなかったことだけは、あなたを評価しても良い』 けれど、それも結局は常識的に当たり前のことなのだがとレイジングハートは告げてくる。 だがそんなレイジングハートに対して…… 「……ごちゃごちゃうるせえよ」 いい加減黙れ、そうドスも利いた低い声で脅すようにカズマは告げる。 レイジングハートの好き勝手な言い分、普段は言わせるがままにしているが、今は気分的に煩わしくて仕方がなかった。 それに、こんな石ころに言われるまでもなく、そんなことは承知の上だ。 「……もう、背負いきれねえんだよ」 自分も連れて行って欲しい、そんな事を言ってきた少年を、金を投げつけて付いて来るなと脅して追っ払った今が、その現状。 もう、誰も傍には寄ってほしくない。踏み込んでこられるのは沢山だ。 ……また奪われるのも、失うのも、もう御免だ。 だからこそこの道に、こんな酔狂な石ころ以外の同道者など誰も必要ない。 いや、もう耐えられないと言った方がいいだろう。 右腕が痛む。泣き出したくなるほどに、疼いて、痛んで仕方がない。 だがそんな右腕以上に、別のどこかがもっと痛んで、そして絶望へと染められていた。 もう嫌だ。もう沢山だ。もう疲れた。 だから―― 「君島……なのは……かなみ……」 失ってしまったもの、取りこぼしてしまったもの、二度とは戻ってこないもの。 彼らに救いを求めても、助けを求めても仕方がないことくらいは分かっている。 ……けれど、もうどうしていいのか分からない。 何処へ向かえば、何処へ逃げればいいのかも……分からない。 それに何より―― 「……劉鳳ォ」 忌々しい宿敵の名。思わず、それを呼ばずにもいられない。 おい、テメエいったい何処へ行きやがった。何処で何をしてやがる。 俺はこんなに傷ついて、苦しんでるってのに……テメエは何処に居やがるってんだ。 「俺はここだ……ここに、いるんだよ……」 だからさっさと―― 「――俺の命を、取りに来いよ」 それが目的だったはずではないのか。生きている意味ではなかったのか。戦った理由ではなかったのか。 だったら――途中で投げ出さずに、最後までそれを果たせよ。 アイツは……あの女じゃ駄目だった。 スバル・ナカジマでは自分を殺せない。とんだ腑抜け、とんだ甘ちゃん、とんだ期待外れ。 だからこそ、もうお前で良い。いや、お前しかいないからさっさと―― 「――生きてるってんなら、俺を殺しに来てみろよ」 もう、お前でしか俺は燃え尽きる事が出来ないんだから。 だから―― 獣は求める。求め続けて、そして彷徨い続ける。 己のあるべき終焉を、齎されるべき救済を求めて…… 絶望の底で足掻くように求め続けながら、無様に、死に焦がれるように。 獣はただ只管に彷徨い続けていた。 彼の願う終焉、それを自らへと下す者を求め続けて―― ――不意に、誰かに名前を呼ばれた気がした。 「……劉鳳さん? どうしたんですか?」 隣で今夜も共に星空を見上げていたかなみが不思議そうにこちらを見つめながら尋ねてくる。 劉鳳はそんな少女に何でもないと首を振る。 気のせい。……ああ、気のせいだろう。 そもそもこの少女と、この集落の人間以外に今は自分の名を呼ぶ者などいないし、そもそも劉鳳がそれ以外の存在など知らないのだから。 仮に或いはと仮定しても…… 「さっき誰かに名前を呼ばれた気がしたんだ」 「え? 誰に?」 「さぁ、分からない。……もしかしたら、君の言うカズマという人か、あるいは高町なのはという人かもしれないな」 現状、他に可能性があるとすれば或いはとそう思っただけ。 けれど仮にそうだとしても、かなみの話を聞く限り、自分はその両者とはどうにもあまり友好的な関係とは言えなかったらしい。断片的に思い出す記憶の欠片のシーンでも同じようなものだ。 だからこそ、仮に本当にカズマなり高町なのはなりに名前を呼ばれていたとしても、それは恐らくとても友好的とは言い難い感情を込めてなのだろう。 どうしてその二人と自分が争っていたのかは分からない。けれど、今の自分ならば……もしかしたら、その二人ともせめて話し合いなりが出来ないだろうかとも思う。 敵意とはいえ自分を知る存在。自分が何者かを知っている者達。 ……逢ってみたい、そんな欲求が劉鳳の中でもないわけではなかった。 「……カズくん」 しかし劉鳳がそんな事を考えている最中、彼が出したその名前に反応したように今度はかなみがその名を心配気に呟く。 カズマ……かなみにとっては家族同然の男だったのだという。 心配なんだろう。いや、家族を心配しない者など居はしないだろう。 だからこそ、劉鳳から見ても、そんな切なげな彼女を見る事は痛ましくもあった。 「……大丈夫。きっと逢えるさ」 保障など無い。口から出任せも同じだが、それでも今は根拠の無い気休めだろうがかなみの事を元気付けてやりたかった。 劉鳳のそんな誠意を察したのかどうかは分からない。しかしかなみもそんな劉鳳に対して、俯いていた顔を上げながら彼の言葉に応じるように頷いた。 そう、逢える。きっと逢えるはずだ。 劉鳳がそう信じる以上に、かなみもまたそれを強く信じていた。 何故なら…… 「なのはさんが言ってくれたんです。もう一度、カズくんと逢わせてくれるって」 そう、由詑かなみの世界の全てが一変してしまったあの日。 夢を見る事が出来なくなったあの日。 けれど、自分を助けてくれたあの魔法使いは約束してくれた。 カズマと自分を逢わせてくれると。 かなみは今も信じている。きっとなのはがいなくなったカズマを見つけ出してくれるはずだと。 「高町、なのは……さん、だったか? 彼女が?」 「うん。あの人が、そう約束してくれたから」 だからきっと――大丈夫。 必ずまた逢えると、かなみは信じていた。 頑なな少女の必死に信じ続けるその姿。 感情と願望もあろう。それ以上の何らかのその対象に対してヘの信頼があることを劉鳳も察する事が出来た。 ……信頼か。 それも大事なものだろう。この大地の上では、最も容易く踏み躙られかねないものだが、それ故にこそ、それを強く信じられる者を劉鳳は尊いとも思った。 だからこそ―― 「ああ、なら大丈夫だろう」 彼女が信じている高町なのは。ならば自分も信頼してみようと思った。 他ならぬその彼女から頼まれた、この少女を護るという願い。 それを、なのはがかなみとカズマを逢わせるその時まで、しっかり果たそう。 そう改めて、劉鳳は強く誓いを立て直した。 次回予告 第11話 劉鳳 記憶無き男の下へと訪れたのは、かつて共に戦いし戦友たち。 失った過去に戸惑う知己との再会。 新たな陰謀が迫る中、男の正義が再びに目覚めを見せる。 その信念、向けられるべきは何者か…… 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3407.html 次へ=
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/24938.html
登録日:2013/11/07 Thu 14 08 55 更新日:2024/07/15 Mon 01 11 35 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 4コマ ViVid おしっこ ねことうふ ギャグ コンプエース コンプティーク 漫画 番外編 魔法少女 魔法少女リリカルなのは 魔法少女リリカルなのはViVId 魔法少女リリカルなのはViVidLIFE 魔法少女リリカルなのはVividLIFEとは魔法少女リリカルなのはViVidを基にした外伝まんが。 連載誌は月刊コンプティーク⇒月刊コンプエース。 作者はねことうふ。 当初は魔法少女リリカルなのはViVid COLORSというタイトルだったが、その後出たViVid FULL COLORS(ViVid本編のフルカラー版コミック)と紛らわしくなったためか改題。 ViVidLIFE(1巻)、同Advance(2巻)、同インターミドル編(3巻)と単行本のタイトルを変えつつ2014年4月号にてひとまず完結。 ViVidLIFEインターバルと改題し、2~4ページでの連載が続いたが、こちらも2016年4月号にて終了した。 【概要】 リリカルなのはシリーズでも比較的平和な世界観でストーリーが進むViVidではあるが、それでも根っこは結構シリアス。 そんな本編の話とはさらに離れた、ゆるい日常を基に描くギャグ作品である。 シリアスすぎる話や血なまぐさい話は一切ないので、本編既読者はもちろん未見にも優しい仕様。 ……こちらから入ってしまうとギャップに戸惑う事も多そうだが。アインハルトとジーク関係が特に。 エログロは無いが結構おしっこネタがあったりするので耐性の無い人はちょっと注意。 そして藤真先生がお気に入りの「ちびリオ」が生まれてしまった作品でもある。 【主な登場キャラクター】 ●高町ヴィヴィオ 「ノーヴェって大人げない……」 一応主人公なのだがあんまり出番はない。 アインハルト相手にSっ気が出たりする事以外に本編と性格・行動に差異の無い良い子。 濃い周りの突っ込み・諌め役としての良心的存在。 ●アインハルト・ストラトス 「暴漢はどこですか!」 本編ではストーリーの渦中にある「覇王の記憶」に振り回される孤高の格闘家……と言うキャラクターはどこへやら。 格闘・バトル要素が脳筋志向の天然にシフトしてしまい、へっぽこ先輩状態になってしまっている。 物を作るとなんか微妙、もしくは謎の前衛芸術と化す。 「中二病」と後輩に突っ込まれたりヘタレなのに妙に負けず嫌いだったりおしっこだったりなんかMに目覚めたりと先輩の威厳とかは無くなってしまった子。でもかわいい。 こちらでは割と普通に微笑んだりしている。 ●コロナ・ティミル 「う……薄い本……」 今作で一番輝いてるキャラクターであり本編との乖離が激しい子。 いたずら好きでお茶目な面が出たりと本編より行動的、更に腐女子(百合思考気味の)であり、身内であるリオやヴィヴィオやアインハルトをもネタにする悪食である。 ●リオ・ウェズリー 「よーし、あたしもちびリオ作るぞ!」 本編からぶっ壊れたコロナと違って、どっちかと言うと年相応の普通の子として描かれている。 ボケかと思ったらわりと突っ込みにも回る万能系の立ち回り。結構ゲーマーでもある。 ついでに藤真先生がお気に入りのクリーチャー「ちびリオ」を生み出した元凶。 ●セイクリッド・ハート 「お前を……殺す!!」 愛称は「クリス」。ヴィヴィオのデバイス。 無口ながらヴィヴィオと仲の良い兎。意志表示はジェスチャーなのだが解読は困難。 ヴィヴィオ作のクリスゴーレムと一騎打ちをしたり、負けず嫌いなところも。 ●アスティオン 「にゃー」 「ティオ」の愛称で呼ばれるアインハルトのデバイス。 完全に子猫のパーソナリティーでありアインハルト大好きである。 ●ノーヴェ・ナカジマ 「ほらこい、もっと強く!(ハァハァ)もっと激しく……!」 かつてはスカリエッティに加担していた少女達「ナンバーズ」だったが、今は更生してナカジマ家五女。 結構さみしがりや。 アインハルトにインネンつけたり、台パンしたり、小学生に叩かれて悦ぶ変態になったりと、あらぬ誤解の数々が彼女を襲う。 ●チンク・ナカジマ 「くっ……殺せ!」 元ナンバーズで現ナカジマ家次女。出番は少ない。 日曜朝の魔女っ子アニメの隠れファン……なのは周知の事実。 ●ディエチ・ナカジマ 「おねーちゃん(ジュースは)ほどほどに……」 元ナンバー(ry 現ナカジマ家三女。出番は極少。 本編と何も変わらない落ち着いたいい子。嫁に欲しい。 ●ウェンディ・ナカジマ 「また旅行っスか!?ノーヴェばかりズルいっス!」 元ナンバ(ry 現ナカジマ家六女。 お布団の魔力に逆らえず旅行に遅刻し、ノーヴェと共に雪山遭難した。 ●セイン 「ガーッと切って、ザーッと炒めてからグーッと煮込む!それからルーをドバーッと」 元ナン(ry 今は教会勤めの子。 かなり子供っぽい性格のシスターであり、自分の無機物透過能力を利用したりしなかったりしながら教会で悪戯してはお灸をすえられる日々。 料理は上手いのだが適当に作る。大雑把に作れる炊き出し系が得意のようだ。 ●オットー 「……キラッ☆」 元ナ(ry 今はカリムの秘書兼執事。 中性的な容姿と執事服から、シスターたちに人気が高い。 女の子のはずなのだが、今さら聞けないということでカリムやシャッハも性別には自信がないとか。 メイド服を来てポーズを取るなどおちゃめな一面も。 ●ディード 「あなたは知りすぎた……」 元(ry オットーの双子の妹。こっちは巨乳シスター。 オットー大好きで、着付けという名のコスプレをさせて撮影したりと結構人生楽しんでるようだ。 ●シャンテ・アピニオン 「そーそーリラックスリラックス」 セインさんすら常識人側に回る、我等がアホ不良シスター。 分身魔法を駆使して色々いたずらやサボりを画策するが、毎度ゲンコツくらっている。 いたずらっ子な割に根は純情で、お風呂で裸を見せたがらない恥ずかしがり屋。 分身は意識を分散させているらしく各々が自我を保っているが……つまり全員サボりたがる悪循環。 ●シャッハ・ヌエラ 「教育的指導です!」 シャンテにげんこつ落とすのが仕事な体育会系シスター。カリムの秘書でもある。 生真面目すぎてカリムの前でおもらしした過去を持つ。 ●カリム・グラシア 「おかたいわねぇシャッハは」 聖王教会のえらいひと。怒らせると怖い。 希少技能である予言能力でシャンテの未来を占うが……? ●ルーテシア・アルピーノ 「あ、それならおかまいなく。さっきそこに建てたので」 ViVid仕様なので明るく楽しい性格の蟲使い兼建築家。 大会参加の為教会に宿泊、ついでに暇を持て余した結果、アインハルトの同級生となっているのだが…ヤロウ、タブー中のタブーに触れやがった…… とりあえずガリューを影武者にすると違和感が無い事が判明した(アインハルト限定)。 ●ガリュー ルールーの召喚虫。カツラひとつでルーテシアに化ける。 ●ジークリンデ・エレミア 「トイレ連れてって……」 次元世界最強の10代少女……なのだがアインハルト以上にダメな補正がかかってしまった(元)ホームレス系ジャージ娘。 道端の草を食べてたりおもらししたり家事が全くできなかったり買い出しが「はじめてのおつかい」状態だったりダメイドだったりと散々。 似顔絵を描けばアインハルトに負けず劣らずのヒドイ出来。 Gが弱点かつ酒に異常に弱い事が判明した。もうやめて!とっくにヴィクトーリア家の壁のライフは0よ!! ●ヴィクトーリア・ダールグリュン 「(これで二児の母ね……)」 お嬢様と言う名のおかん。後に本編でまでお母さん扱いが定着したが間違いなく本作が原因。 あらあらうふふ系のお嬢様だがジークに萌えまくるダメな一面も。 割と家事とかは得意な方だったりする。 ●ミカヤ・シェベル 「はっはっは、眼福眼福」 若干ストパンのもっさんとかの匂いがするおっさん志向の剣術家。 特訓と称し何かとひん剥こうとしていた。 結果アインハルトとヴィヴィオの心が真っ二つに折れた。 あと、確実に歳を気にしている(インターミドル出場回数的に) ●ハリー・トライベッカ 「職場体験ってやつだよ。授業の一環で」 本編らしい性格の、常識的かつわりと女の子っぽい番長さん。真面目な不良。 タバコをぷかりかと思えばラムネシガレット。 ちなみにイクラよりウニ派。あと、描く絵がやたらかわいい。 ●エルス・タスミン 「我が名は"黒き正義"ブラックジャスティス! ぐううッ右腕が暴れるッ! 静まれパニッシャー!」 ……といった黒歴史を持つ正義執行系委員長。 ライトオタ眼鏡っこ。コロナの域には程遠いし到達しなくていい。 ●ファビア・クロゼルグ 「10年コースと50年コース」 数量限定ケーキを買い損ねた恨みから、ジークに10年若返る呪いをかける。ヴィクターさん歓喜。 巻き添えのミカやんも歓喜(IM出場回数的に)。 ●ミウラ・リナルディ 「わあ大きな犬!ペットですか?」 男の娘に間違えられがちだが女の子。 八神家と共に出てくる事が多い。何かと地雷を踏みがち。 ●ユミナ・アンクレイヴ 「リオ選手の命は後5秒」 インターバルより登場。天然なアインハルトに少々振り回されつつも世話を焼く。 マッサージでヴィヴィオたちを虜にしつつ自分もハァハァ。 ●高町なのは 「フェイトちゃんお昼作って~」 この話ではいいお母さんしている今作の良心の一人。 娘たちの「正月」にマジビビりしたりアインハルトに料理を教えたりと良くも悪くも普通の良い人と言う描写。 ある意味一番原作の原作のなのはに近いキャラクター。 家では娘達が見てないとだらけちゃう時もある様だ。 ●フェイト・テスタロッサ 「出前でいいよね~」 なのはに比べたら地味な役回りも多いヴィヴィオのお母さんの一人。 公私ともに認めるなのはの嫁らしく、なのはがアインハルトを襲った(と勘違いした)ときは「私と言うものがありながら……」と怒りをあらわにしていた。 運動会の二人三脚ではどちらがヴィヴィオと走るかなのはと喧嘩になっていた親バカ二号。 ●八神はやて 「治療費は100万円や~」 ティオの調整の話などで登場する、真正古代ベルカ式の魔導騎士。 近所の優しいお姉さんという感じ。ヴィータを猫のように可愛がっていた。 ●その他八神家の面々 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、アギト、のろうさと全員出てくる。アインスの写真も。 八神家は今日も平和です。 ●ちびリオ キャラクターなのか怪しいが、コイツの紹介も避けては通れない。 ゴーレム創成の授業の際、リオが自身をモデルに作成した結果生まれた名状しがたきクリ―チャー。 クオリティの高いちびコロナや微妙な出来のちびアインハルトを連続で屠る活躍(?)を見せた。 手のひらサイズでゴライアスを圧倒するうさんくさい強さを誇る。流石にヴィータには敵わなかったが。 何気に単行本2巻表紙センターを飾りやがった物体。ついでにカバー下皆勤賞。 しまいにはシリアル特典としてなのはINNOCENTにも参戦した。 追記・修正は、ちびリオを作りながらお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 結構好きなんだがすぐに漏らそうとするのはどうにかしてほしいw -- 名無しさん (2013-11-08 18 36 34) pixivで自分の指を焼いてウインナーにするまどマギ漫画見てから素直に読めない -- 名無しさん (2013-12-11 21 48 58) え?これってミウラ出てこないの? -- 名無しさん (2014-02-02 11 04 24) ↑インターミドル編の最後の方で出てる。 -- 電王牙 (2014-05-30 21 34 16) 本編の円盤の特典でアニメ化しそうなキガス -- 名無しさん (2015-01-13 15 06 31) ↑おもらしも映像として見られるんですか?(期待) -- 名無しさん (2015-02-04 13 56 27) ユミナが登場した理由がなんとなくわかった気がする。たまに漏らすのは…まあそういう作風だとしか -- 名無しさん (2015-06-02 04 45 00) ねことうふ先生まどマギの同人描いてたころから急にブラックジョーク好きになったよね、おもしろいから今の方が好きだけど -- 名無しさん (2015-06-02 10 50 44) これ読んでから本編のアニメ見たからコロナに違和感がありすぎる -- 名無しさん (2015-09-25 22 46 15) フーカとリンネあたりから 始めてこのシリーズを知ったぞ。 海鳴市から時空管理局とか変な用語あったけど 首を縦に振りながら視聴?しました。 -- 名無しさん (2017-05-06 15 54 12) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/ls2014/pages/143.html
支給品名 支給者名 説明 レヴァンティン フランドール・スカーレット ヴォルケンリッターの将。烈火の将シグナムが持つ、剣型のアームドデバイス。カードリッジにより様々な形態に変わる。同梱のカードリッジ数は4発。 クラールヴィント ビアンカ 騎士の指輪の形を持つデバイス。攻撃力がほとんど無い代わりに、強力なサポート能力を持つ。 アスティオン アインハルト・ストラトス エルシニアクロイツ 闇統べる王 紫天の書 闇統べる王 ルシフェリオン 星光の殲滅者 バルニフィカス 雷刃の襲撃者 ライディングボード 雷 「魔法少女リリカルなのはStrikerS」に登場する、戦闘機人ナンバーズの11・ウェンディの砲撃武器。頑丈で巨大な盾。その先端には砲門がついている。なお、飛行はウェンディの能力なので、ライディングボード単体には飛行能力はない。 発信機 メルトリリス 「魔法少女リリカルなのはViVid」に登場。ノーヴェ・ナカジマがアインハルトと対峙した際、 リボルバー・スパイクで蹴った時に発信機を付け、後にアインハルトの位置を発見することができた品。受信機は発信機の位置を正確に把握できる。 みずいろまんまる 雷刃の襲撃者→泉研 ソーダ味のペロペロキャンディ。雷刃の襲撃者の大好物。 レイジングハート・エクセリオン 歳納京子→高町ヴィヴィオ 高町なのはの使用するインテリジェントデバイス。
https://w.atwiki.jp/a_nanoha/pages/155.html
管理者権限 デバイスや魔導書には、使用者として正式に登録された者以外は、機能使用をできないようにするセキュリティがかけられているものが多い。 夜天の書にも同様のセキュリティがかかっており、所有者として選ばれたとしても、ページ蒐集によって魔導書を完成させ、 さらに防御プログラム・管制プログラム双方の認証を受けなければ機能の全てを使用することはできない。 本来は盗用や誤動作を防ぐためのシステムだったが、自律思考の能力を持たない防御プログラムの機能破損によって、 ページ蒐集・完成後も主への管理者権限の付与が正しく行われず、結果として幾度も発生する「暴走」の原因となっていた。 はやてが行った防御プログラムへの切り離しによって、「闇の書」と呼ばれ恐れられていた莫大な力の多くは失われたが、 それによってはやては管制プログラム…リインフォースを闇から解き放つことに成功した。 守護騎士システム 管理者権限を持つ主は、守護騎士システムを完全な形で運用することが可能となる。 主からの魔力付与による破損再生や記憶・感情のリンクといった形で、主と騎士の結びつきはより深く、確かな絆として現れる。 覚醒 夜天の書の管制プログラムであり、ユニゾンデバイスとしての機能も持つリインフォースとの融合によって、はやては真の意味での覚醒を得る。 「闇の書の意志」と呼ばれた呪われた黒き力の担い手ではなく、戦場に勝利を呼ぶ「祝福の風」となったリインフォースは、 愛しき主のためにその力の全てを駆使し、魔法管制を行う。 そして、はやてが本来持つ魔法資質「遠距離・遠隔発生」にリインフォースの持つ「広域攻撃」が重なり溶けあうことによって、 はやては絶対的な支援能力を誇る魔導騎士としての力を得る。 騎士甲冑を纏い、剣十字の杖(シュベルトクロイツ)と夜天の書を手にしたその姿は「最後の夜天の主」の名に相応しいものと言える。 なお、髪や瞳の色の変化は、ユニゾンデバイス使用者の特色の一つであり、容姿のそのものに変化がないのは、 はやてがリインフォースを完全な制御化に置いている証。 静かなる癒し 治療魔法。術者の至近距離に設定した空間範囲内の者を対象として、負傷の治療・体力や魔力の回復促進・防護服の修復といった効果を発生させる。 バックアップのエキスパート・シャマルと、そのデバイス・クラールヴィントの本領発揮と言える魔法である。 闇の書の闇 夜天の書から分離された防御プログラムが、制御を失って暴走している姿。 疑似生体部品で構築された柔軟な体と、脚部や胴部の外皮を覆う硬質装甲の肉体を持ち高速回復の能力を持つ。 防御プログラムの名の通り、本来は夜天の書に収められた魔力を使用して、主を守る防壁となる役割のシステムだったものが、 度重なる改修によって破損し、制御不能の状態に陥ったまま、復活と破滅を繰り返すだけとなってしまった存在。 攻撃能力は接触浸食と生体部品による打撃、単純砲撃のみだが、適切な処置が成されなければ、無限再生によって触れたものを侵食、 周囲の物体や生命を取り込み続け、無秩序に、そして無限に成長してゆく脅威となる。 チェーンバインド 鎖状の拘束光によって対象を絡め取るバインド魔法。 拘束力に優れ、特に動作が遅い複数対象の同時制止には適している。威力や精度を高めることで、軟質な材料であれば引きちぎることも可能となる。 ストラグルバインド 通常のバインドに、対象の魔力を打ち消す効果を込めた捕獲魔法。発生速度や距離・拘束力といった面では振るわないが、 自身に魔力強化を施した対象には高い効果を誇り、魔力で体を構成した魔力生物に対しては武器ともなる。 ギガントシュラーク グラーフアイゼン・ギガントフォルムを使用した、ヴィータの最大攻撃。魔力使用によって大柄なハンマーヘッドをさらに巨大化。 莫大な質量とそこに込められた魔力によって対象を防御ごと叩き潰す、物理打撃攻撃としては究極とも言える攻撃力を誇る破壊の鉄槌。 結界破壊の効果を持ち合わせることから、状況突破力の切り札となる。鉄槌の騎士ヴィータの戦闘技の象徴とも言える、一撃必殺の大威力攻撃である。 エクセリオンバスター・フォースバースト エクセリオンモードから放つ、なのはの中距離砲撃。 同時に放たれる4つの砲撃は、拡散させずに一点集中させることで、防御を貫き破壊する、高い貫通力を叩き出す。 シュツルムファルケン レヴァンティン・ボーゲンフォルムから放たれる、シグナムの「一撃必殺」の一つ。 レヴァンティンとその鞘を弓に変形させ、刀身の一部を流用して生み出した矢で遠間の相手を撃ち抜く。 音速を超えて飛翔する矢は、ごく短時間ながらシグナムの魔力を減衰させることなく保持し、 着弾時爆裂・結界破壊といった強力な追加効果をも持ち合わせる。 かつてフェイトとの対戦時に使用しようとしたのは、近接戦闘で互いに決定打を与えられない状況下で、 遠距離での決め技を持つフェイトが遠間に離れると踏んで、そこを狙い撃つという戦略を視野に入れていたため。 かすかな迷いがあったその時とは異なり、フェイトを前衛に置き、主や仲間と共に立つ戦場でつがえた音速超過の炎の矢は、迷うことなく一直線に放たれる。 ジェットザンバー バルディッシュアサルトのフルドライブ、ザンバーフォームから放つ攻撃。 長く伸ばした魔力刃によって、対象を貫き両断する斬撃攻撃。 鋭く研ぎ澄まされた巨大な半実体化魔力刃は、対象の防御を「切り裂いて突き抜ける」という荒業を可能とし、 四層式バリア最後の一枚と同時に闇の書の闇本体を両断していることから、その威力が伺える。 鋼の軛 地面や壁から拘束条を発生させる範囲型の捕縛・拘束魔法。 対象を突き刺すことで動きを止める他、通路を塞ぐなどの目的でも使用され、屋内では特に強力な制止力を誇る。 空中に発生させることはできないが、水底を含む地上からは数十メートルまで進展させることができる、汎用性と支援性能に優れた魔法である。 ミストルティン 遠隔発生型の砲撃魔法。最大7本の光の槍を発生させ、対象を貫く。 射程は短く、直接攻撃力や防御貫通力も高くないが、最大の特徴は命中によって発動する「石化」効果。 生体細胞を凝固させることによって発生するこの石化効果は、生命体に対しては極めて高い決定力を誇る。 エターナルコフィン デュランダルにセットされた凍結魔法。 空間内に極低温を発生させることにより、対象を死亡させることなく完全凍結させることを目的としている。 「永遠の棺」の名の通り、通常の生命体に使用すれば、凍結が物理的手段(破壊、高温等)で融解するまで、対象は長く果てない眠りにつくことになる。 本来はオーバーSクラスの高位魔法だが、デュランダルが凍結魔法特化型としてチューンされていること、 クロノ自身が温度変化や魔力変換についての学習や鍛錬をこなしていたこともあり、ほぼ完全な形で発動している。 スターライトブレイカーex レイジングハートエクセリオン・エクセリオンモードで放つ、なのはの「全力全開」の砲撃魔法。周辺魔力を集積して放つ巨大砲撃。 それに加え、カートリッジシステム搭載後は、マガジン内のカートリッジ全てを使用して放つ仕様になっており、 「+」にあった約10秒のチャージタイムを半分近くに短縮して放つことが可能となっている。 その威力はあらゆるものを破砕する絶対的な威力を誇る反面、自身の限界を超えた魔力を扱うなのは本人と、 機関の限界を超えた稼働をするレイジングハートへの負担は極めて高く、なのはは一定の魔力回復時間、 レイジングハートは機体冷却とメンテナンスが必要となり、戦闘行動がほぼ行えなくなる。 正真正銘、なのはとレイジングハートの最後の切り札である。 プラズマザンバーブレイカー バルディッシュアサルト・ザンバーフォームで放つ、フェイトの砲撃魔法。高速儀式魔法によって落雷を発生。 ザンバーの巨大な刀身にそのエネルギーを蓄積することで、自身の限界を超えた魔力を扱うことを可能としている。 (屋内で放つ際は、プラズマスフィアを吸収することで同様の効果を得る) 刀身に蓄えたエネルギーは自身の魔力、リボルバー内のカートリッジ全ての魔力と重ね合わせ、 電光を伴う巨大な魔力砲として打ち出すことで、対象を完全破壊する。 ラグナロク 直射型の砲撃魔法。 魔法陣の周囲に形成した3つの発射体から、それぞれ異なる防御干渉・命中時反応効果を持つ三連の砲撃を放ち、対象を破壊する。 はやてとリインフォースが持つ砲撃魔法のうち、現時点で最大の攻撃力を誇る魔法である。 夜天の書の蓄積魔力を使用するため、使用すると一時的にページが減少し、回復までは一定の時間が必要となる。 本来は着弾時の拡散性能が高く、広域殲滅をも可能とした仕様になっているが、3人で協力しての砲撃・コア露出という目的から、 拡散を最小限に抑えた貫通破壊型にすることをはやてが選択。 はやてと融合したリインフォースが調整と操作を行い、その効果を正しく発動させている。 超長距離転送 シャマル・アルフ・ユーノの三人での協力によるコアの捕獲と転送。 シャマルがコアを探索、旅の鏡を使用しての引き寄せを行い、ユーノ・アルフが転送座標の設定。 三人で同時に転送を行うことで、本来は転送が困難な巨大魔力のコアを、軌道上まで打ち上げることを可能とした。 アルカンシェル 管理局の大型艦船に搭載される魔導砲。 管理局の艦船武装のうちでも屈指の殲滅力を誇り、その使用は特定条件を満たした状況や対象に対してしか許可されない。 弾体自体に攻撃力はほとんどなく、着弾後一定時間の経過によって、空間歪曲と反応消滅を引き起こす。 最大射程よりも着弾効果の発生の方が遥かに大きいため、発射後は艦船転送による避難が必須となる。
https://w.atwiki.jp/wao8080/pages/27.html
魔法少女リリカルなのはSHINE~ばーじょんAs~ 著者:空魔神 2009年 10月 19日 更新> 作品の紹介 なのはSHINE~ばーじょんAs~第一話Bパート更新しました。 すずかと揃って図書館にやってきた聖。そこで出会うのは車椅子の少女で……。 それでは魔法少女リリカルなのはSHINE~ばーじょんAs~第一話Bパートに・・・・・・ドライブ・イグニッション!! As再放送が始まったので以前より考えていた番外編に取り掛かりました。 「なのはSHINE~ばーじょんAs~」タイトルの通り、Asでの聖を描いています。あくまでAsの聖の登場シーンを描いているので戦闘シーンは難しいかも。 それでは魔法少女リリカルなのはSHINE~ばーじょんAs~第一話Aパートに・・・・・・ドライブ・イグニッション!! 空魔神自身が初の本格的な原作沿いssに挑戦なので尾見苦しい点があるかもしれません。不明瞭な点があれば遠慮なく仰ってください。 蒼き天の支配空間
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3159.html
「……成程、覚悟は本物みたいですね。失礼、貴女を試すような真似をしてしまいましたね」 こちらの宣言に対し、クーガーはジッと視線を逸らすことも無く見つめてきたかと思えばやがて納得したように頷いてそう言ってきた。 なのははクーガーの謝罪に対し、いいえと首を振る。彼が事前に懸念を抱くのは道理だ。土壇場でこちらが地位を惜しさに怖気づくようならそんなものは足手纏いでしかないのだから意思確認には当然のことだろう。 だからこそ、なのはは試されたことにも特に不快感を抱くことも無くすんなりと受け止められた。 それよりも、先にも増して逆にこちらの方が疑問を抱いたほどだ。 「クーガーさんは良いんですか? 貴方のほうがホーリー隊員である分、色々と問題になるんじゃ……」 自分は最低でも管理局の人間という外部の側の扱いとしてジグマールからは直接に罪に問われることは無い。 けれどこのストレイト・クーガーという男は違う。彼はまごうことなきジグマールの直属の部下であるホーリー隊員だ。こんな事をすればジグマールからの処罰は逃れられないはずだ。 だがなのはのそんな心配に対してもクーガーは相も変わらずのその掴みどころの無い態度を崩す様子も無く、 「なに、俺は良いんですよ。こう見えても勝算がありますからね。……それに、俺は貴女と違って失うものだってないんです。便利ですよ、フットワークが軽いというのは」 失う恐れなど最初から無い、だから気軽なものなのだとクーガーは言ってくる。 だが当然、そんなはずがないことはなのはだって知っている。 マーティン・ジグマールの方針なのかどうかは知らないが、ホーリーは隊員で居続けることですら厳しいということは彼女も聞いたことがある。 ホーリーの隊員たちに与えられている市街での居住権……インナーであることから脱却し文明の加護を受けながら、豊かな生活を送れる権利。 だが彼らにとってコレは完全に保障されたものでは無い。劉鳳のような一部の例外を除き、ホーリー隊員が有するこれらの権利は常に暫定的なものに過ぎず、剥奪の恐れは常に持ち合わせているあやふやなものに過ぎない。 これは本土側へと隊員の帰属を常に意識させる戒めのようなものであるらしいが、故にこそインナー出身の隊員たちにとっては重要なことなのだ。 アルター使いは何処に行っても嫌われ者。 それはこのロストグラウンドにおいては言わば常識としても認知されかけている風習。 はぐれ者である、行き場の無い根無し草であるからこそ、常に人間扱いをしてくれる場所を望む。 アルター使いにとっては、ホーリーこそがその唯一の居場所であり拠り所なのだとは以前に水守からも少しだけ聞いたこともあった。 だからこそ、彼らは刹那的では無い完全に保障された権利である、市街への永住権を強く求めるのだという。 ホーリー隊員として部隊に貢献し続ければいつかはきっとソレが与えられると信じて……。 なのはが知る限り、大半のホーリーの隊員たちもその所属理由はソレと同じはずであった。 言動から文化を愛する事を常としているこの男が、どうしてその求めて止まない文化的暮らしを棒に振る危険性を冒してまで桐生水守に拘るのか、それがなのはには理解できなかった。 「仮にデメリットが貴方に無いにしても……この行動にメリットだって無いんじゃないんですか?」 少なくとも、なのはが見る限りではクーガーがこんな危険な橋を渡ってまで得られるものというのも想像できない。むしろそんなものがあることすら疑わしい。 だがなのはのそんな疑問に対しても、クーガーはまるで何を言っているのかと言った態度で当然のように答えてくる。 「メリットが無い? ハハハ、何を言ってるんですかなのかさん。メリットなら十分にありますとも」 「……それはいったい何ですか?」 続けて問うなのはの疑問に対し、クーガーはその奇妙なサングラスを髪の上へと上げながら当然の真理の如くその答えを告げてきた。 「簡単ですよ。他の誰でもない、この俺がみのりさんを助け出すことが出来る……意中の女性にアピールできる最大のチャンスですよ? 見逃す方がありえません」 正直、最初聞いた時は思わずズッコケそうになった。 本気でそんな事を考えているのかと、先程とは別の意味で疑わしい視線を向けるなのはに対してもクーガーは変わらぬその上機嫌な態度を崩そうともしていない。 そんな言ってはなんだが下心満載な理由でこんな危ない橋を渡ろうとしているなど……なのはには正直理解しかねていた。 「何です、なのかさん? 変な顔をして。……あ、言っときますが彼女の白馬の王子様のポジションだけは貴女とはいえ頼まれても譲れませんよ、最初に断っときますけど」 クーガーがこれだけは譲れないといった断固とした態度を見せてくることに関して、そして彼の言動云々についてはこの際置いておこう。 だが彼は分かっているのだろうか?……いいや、分かっていないはずがない。何せその手の事柄には格別に疎い自分ですら察しがついていることなのだから。 だからなのはは無自覚にもある種の当然であり残酷とも言える事実を告げる。 「……でも、その水守さんの意中の人は、貴方以外の別人ですよ?」 桐生水守が想いを寄せているのは彼―――ストレイト・クーガーではない。 同じホーリーの部隊員だが別人。それも彼にしては最も勝ち目の無さそうな相手。 ―――劉鳳。 水守が彼を好いているのは恐らく間違いないだろう。 それはクーガーだって分かっているはずだ。ならばこそとなのはは疑問に思う。 彼の想いは恐らく届かないし報われない。それはクーガー自身すら分かりきっているはずのこと。 だったらどうして――― 「……どうして、報われないかもしれない想いに全てを賭けられるんですか?」 それが分からないと高町なのははストレイト・クーガーへと問うた。 無自覚で、そういったものに疎く、鈍い彼女であるとはいえそれは残酷な質問だっただろう。 だが悪気も無いなのはのその問いにクーガーは怒り出すことも無く、殊更ショックなども受けた様子も無く、それこそいつも通りの態度でその疑問へと答えてきた。 「当然、俺が彼女を心底気に入っているからですよ」 ニヤリ、と自身でもニヒルに決めている心算なのだろう笑みを浮かべてクーガーは告げる。 「なのかさん、貴女は恋をしたことがないんですか? その様子だと無さそうですね、いやそれは実に勿体無い! 貴女ほどの美人です、一度といわず二度、いや、三度四度と若い内に恋は経験しておくものです。 在りし日の思い出、甘酸っぱかった青春の日々、睦まじき想い人へと寄せた真摯な想い……えぇ、それこそが文化です。ファンタスティックです! 想い人との共有しあう時間、ええそこに速さは必要ありません。じっくりと、満足のいくように記憶に刻めるだけの経験を共に重ねる。それは最速で物事を成し遂げ、時間を有効に活用する文化の基本原則なみに貴重なことです。 ええ、だからこそ恋とは素晴らしい! 恋は速さにも並ぶ人間が尊ぶべき基本原則、常に文化を営み続けてきた人類の軌跡! だからこそ俺は自分が抱いたこの想いこそを優先させる。 そこにこそ、俺が求めてきた文化の真髄があるはずなんですから!」 突如熱弁を振るいだすクーガーに、それこそなのはが驚きドン引きしたのは言うまでもない。 彼のマシンガントークが謳い続ける恋の素晴らしさ……なのはには未だによく分からないその手の事柄だが、それでも一つだけ分かったことがある。 少なくとも、彼が水守へと抱くその想いは偽りなき真剣で、とても真摯なものであるのだということ。 そして彼はきっとこれから先にすら、その想いを裏切ることは決してないのだろう。 それが何故かなのはには眩しく映り、クーガーのその姿勢にどこか羨ましさのようなものを無自覚にも感じていた。 或いは、ソレは恋というものを知らぬままに一段階飛んで母親という大人になってしまった彼女が抱いた、最後の少女としての想いであり羨望だったのかもしれない。 果たして、その彼女が想うべきである対象とは誰なのか………いや、未だ自覚なき彼女自身も気づいていない答を此処で曝すのは無粋というものか。 兎も角、ストレイト・クーガーの思わぬその恋という価値観の布教は、或いは何処かの誰かに思わぬチャンスを与えていたのかもしれない。 「いいですか、なのかさん? 大切なのは相手にどう想ってもらうかじゃありません。それも勿論大切ですが、でもそれ以上に大切なのは自分が相手を本当に想い続けることができるかどうかなんです。 ええ、その一点においてなら俺は負けない自信があります。たとえみのりさんが劉鳳を好きだろうがそんなの俺には関係ありません。俺がみのりさんを気に入っているんです、大切なのはそこです。そして俺にはそれで十分。後は彼女へのこの想いを俺は最速で貫くだけ、たったそれだけのことに過ぎないんですよ」 熱く想い人への想いを語るクーガー。あるいはその潔い姿と価値観に聞く者が聞けば惜しみない賞賛や拍手を贈ったかもしれない。 その想い人当人の呼称を未だに盛大に間違い続けているという問題さえ除けばだろうが、となのはは思う。 区切りの良い辺りでクーガーのトークが止まったのを見計らい、なのははすかさずもう結構だ、十分に理解できたと彼の熱弁を打ち切らせる。 未だ語り足りない雰囲気を見せ、残念さを顕にしていたクーガーもなのはが早く水守を助けに行こうと促がすのを了承し、彼の恋の布教活動は此処に幕を閉じた。 それにしても水守がいるのは恐らく市街、それも中心部であるホーリーの拠点でもあるセントラルピラーだ。 当然、市街よりそれなりに離れた場所にあるこの廃橋からはかなりの距離があるのは言うまでも無い。 夜襲を計画し実行する予定だけに早く戻らねば夜が明けてしまう。それでも帰りもまたクーガーの運転する車に乗りたいとは絶対に思わないが。 飛んで帰るか、そんな事をなのはが考えていた時だった。 「風力・温度・湿度……一気に確認」 廃橋の先端、人差し指を天へと伸ばしそんな事を言い出したクーガーへとなのはは振り向く。 一体彼は何をしているのか、何をしようとしているのか? 「なら、捕らわれの姫君の救出と行きましょうか。なのかさん、何か衝撃に耐えられる準備はありますか?」 クーガーが言ってきた問いの意味が分からず、それこそ一瞬キョトンとしたなのはであったがバリアジャケットならばそれにも一応該当すると思い、あると答える。 クーガーはそれは良かったと頷きながら、ならば準備をしてくださいと言ってくる。クーガーの意図が全然分からなかったなのははそれこそ戸惑うものの、彼に促がされるままに仕方なくバリアジャケットだけは身に纏う。 桜色の光に突如包まれ、瞬時にその姿を変えたなのはを見て、クーガーは口笛を鳴らすような素振りを見せるが、まぁそれもどうでもいい。 準備が出来たとなのはが示すのをクーガーも確認すると、ではこちらに来てくれと次には言われた。 意味が分からぬまま廃橋の先端へと歩くなのは。辿り着き下を見下ろせば結構な高さであった。自分は飛べるから良いが、クーガーは落ちればタダでは済まないだろう。 此処は危ないですよ、そう注意を促がそうと振り返った瞬間だった。 「ではちょっと失礼。そして、参りましょうか」 いきなりクーガーに肩を抱かれる。一体何をと思わず突き放そうと動きかけるもクーガーの次の動作の方が速い。 なんと彼はこちらをしっかりと抱きしめたまま廃橋の先端から飛び降りたのだ。 いきなりの心中自殺にそれこそ訳が分からずなのはは混乱し、理解が追いつかない。それでもこのままでは地面への激突死は避けられないと咄嗟に危ぶんだなのはは飛翔しようとするも――― 「大丈夫! 俺を信じて!」 即座に言ってきたクーガーの自信満々な言動にそれを押し留められた。 次の瞬間、器用にこちらを落下しながら脇に抱えなおしたクーガーを中心に虹色の光―――アルター発現の粒子が発生。 その後からはあまりにもなのはの知覚外でのスピード過ぎたので、それこそ何が起こったのかも分からなかった。 担がれている自分も同様に、クーガーが着地とほぼ同時に凄まじい速度で疾走しているということしか分からない。 それこそフェイトのスピードを良く知っているなのはですら、実際に体感したことの無い未知のレベルのスピードには悲鳴云々を上げる暇すらなかった。 ただ一つハッキリしているのは、これは先の暴走車以上に性質が悪い、ただそれだけである。 そして高町なのはを抱えながら、それでも衰える素振りも見せぬストレイト・クーガーは全力の走りで瞬く間に市街へと到達。 そのままセントラルピラー内部……勿論、事前に把握している桐生水守の監禁部屋へと突っ込んでいく。 それこそクーガーが疾走した後には、台風でも通過したかのような痕跡が残り、それどころか音の方が後から彼を追いかけている始末だ。 ―――誰も捉え切れない。 かつてマーティン・ジグマールは彼のスピードをそう評し、高く買っていた。 今まさにソレが、皮肉にもジグマールが予期もしていなかった形で証明されることとなった。 駆け抜け、突っ込むクーガーとなのは。その衝撃は当然ながら凄まじいなどという言葉すら超えた勢いで、セントラルピラーを震わせる程の結果となった。 「何事だッ!?」 このような夜中に、しかも市街……ホーリーの拠点でもあるセントラルピラーがこのような衝撃に襲われるなど、ホーリー創設以来から前代未聞の事態である。 それこそ馬鹿げたことだが敵襲……だが何者がいったい何の目的で? 沸きあがる疑問を苛立ちと共に収めながら、それでもジグマールの対応は即座であり的確なものだった。 「イーリィヤン、何があった!?」 呼び出したのは己の腹心にして、このような事態において限りなく重宝する能力を有している部下だ。 彼のアルター“絶対知覚”ならば襲撃者の正体は瞬時に割り出せる、そう判断してのことだった。 だがジグマールのその言葉は、イーリィヤンからの信じられない言葉によって裏切られることとなる。 『……分からない。……知覚、出来なかった……』 馬鹿な、とそれこそジグマールが驚嘆と共に目を見開いたのは言うまでもないだろう。それこそ、彼を嫌う者ならばその滅多に見れない醜態にざまあみろとでもせせら笑ったかもしれない。 いったいどういうことだ、何故イーリィヤンのアルターで捕捉できない。その疑問に再燃する苛立ちが拍車を掛ける。 「ならば現状は?」 『それも分からない。……さっきの衝撃で僕の能力と建物のシステム自体が一時的に停止している状態』 つまり何も分からない……ますます判明する最悪の状況にジグマールは舌打ちを漏らしかけるも理性でソレを自制した。 落ち着け、どんな時でも揺るがずに行動する……それこそがホーリー部隊隊長として、そしてマーティン・ジグマール自身としても在るべき在り方のはずだ。 そう必死にジグマールは自身へと言いきかせ、沸き立つ苛立ちを理性を持って押さえ込んだ。 「……分かった。ならばイーリィヤン、君はシステムの復旧に全力で当たってくれ」 最後にそれだけを冷静にイーリィヤンへと命じるジグマール。 そんな彼をイーリィヤンは珍しくも心配げな面持ちで見つめてくる。 それに対してジグマールは、ほんの……そう、ほんの一瞬だけ穏やかで優しげな笑みを彼へと見せ、大丈夫だと告げた。 それにイーリィヤンが本当に納得したかどうかは分からない。が、彼もまたそのジグマールの促がしに応えるべくシステム復旧の作業へと戻っていった。 イーリィヤンが画面から消えるのを確認した後、ジグマールは椅子の背凭れに深く沈みこむように凭れかかりながら重い溜め息をついていた。 もうこの頃には、冷静さを大分取り戻した思考からある仮定を導きだしていた。 イーリィヤンの知覚外でこれだけの行動を起こせるものなどそれこそ限られている。 それを高く評価して、自分はそもそもあの男を引き入れたのだから……… 「……やはり貴様なのか……ストレイト・クーガー……」 その漏れた呟きは、もはや習慣にもなりかけている苦々しさも溢れたものであった。 いったい何が起こったのか。 それこそそれに最大限戸惑ったのは、その衝撃が直接に部屋全体を襲い、巻き込まれた桐生水守であった。 爆撃でもされたのか、そう思えるほどに室内は滅茶苦茶で、朦々と粉塵までもが部屋全体に立ち込める始末。 衝撃の痛みに顔を顰め、蔓延する粉塵にむせ返りながら水守は自分を閉じ込めていた部屋の壁にあいた大穴へと視線を向ける。 「いかんいかん、世界を縮め過ぎてしまった」 「ゴホゴホッ………本当に……やり過ぎです!」 煙のせいでその姿は隠れて見えない……が聞こえてきた聞き慣れたその二つの声にそれこそ水守は目を見開いた。 聞き違い?……でも彼らがこんなところにいるわけが……。 そう考えていた水守の思考を現実へと戻したのは一つの声。 「水守さん! 助けに来たよ、無事!?」 そう言って駆け寄って抱きしめてくれたのは高町なのは……自分のこのロストグラウンドでの数少ない仲間。会いたかった人。 「………高町、さん………?」 「うん、私だよ。大丈夫、怪我とかしてない?」 白い衣装を埃まみれにしながらも、それでもそうこちらを安心させるように笑いかけてきてくれるなのは。 埃にまみれていようが、彼女は本当に綺麗で……そして、やはり優しい。 助けに来てくれた、漸くに理解したその事実に嬉しさと同時に安堵感が広がり、諦めかけていた絶望から救われたことで、水守の我慢は限界に達していた。 それこそ次の瞬間、水守からなのはを抱きしめ返し彼女の服に顔を埋めて泣き出す始末だった。 「……ごめんね、助けに来るのが遅くなって。でももう安心だよ」 偉いね、よく頑張ったよとまるで幼子に言い聞かせるように泣いている水守の頭を撫でながらそうやって安心させるなのは。 結局、なのはに先を越され良い所を全部持っていかれる形になってしまったクーガーはそれこそどうしたものかと手持ち無沙汰で彼女たちを見守ることしか出来なかった。 秩序を乱し、人を傷つけ、己の欲のままに振舞う男。 ……だが、それだけではない。 感じる、この男から何かを……。 何故だ? 俺に平然と逆らう、俺の前に現れた初めての――― 「―――う! 劉鳳! 劉鳳ってば!」 そう立て続けに呼ばれ、身を揺すられたことで彼―――劉鳳の意識は漸く夢から現実へと覚醒を果たした。 勢い良く目を開ける。動悸が激しく、発汗している。 これはいつもの……あの悪夢を見たことの証拠だと劉鳳は判断した。 実際、見ていた夢の大半は思い出せる限りでも『あの男』のことばかりであったが、それでも目覚めの直前に見えたのは忘れもしない、出来るはずも無い六年前のあの光景だった。 優しく美しかった母。そして幼少時、誰よりも共に長く時間を共有しあった友達であった愛犬。 彼女たちだけではない……あの事件はよく仕えてくれていた屋敷の使用人たちも含め、近隣の無関係な多くの人々も命を落とした。 ……そう、あの両手に雷を纏った正体不明のアルター……奴の手によって! 「……何があった?」 だがその憎悪を再確認しながらも、今はそれだけに捕らわれている時でもないと判断した劉鳳は寝ていた上半身を起き上がらせながら、自分を起こしたシェリスへと状況を尋ねる。 「通信システムが回復したわ。それと……」 シェリスの顔が曇る。それだけで良くない報せなのだろうと劉鳳は予想できた。 「……それと?」 「……エマージーが、倒されたそうよ」 予想は出来ていたことだ。 だが同じ組織に所属し、共に同じ理想と正義を目指した同僚がやられたというのだ、人付き合いを避け、エマージー当人ともそうあまり親しいわけでもなかった劉鳳でも思うところは色々とある。 エマージー・マクスウェル、お前はお前の正義に殉じたのか?……だとするならば、よく戦った、後は俺に任せろ。 敗れた同僚……被害の程度は分からないがアルター使いにとって自身のアルターを破られるということがどのような末路を辿るかはある程度予想できていただけに、エマージーもまたそうなっているのだろうと思った。 彼の正義もまた己が引き継ごう、これまで敗れて離脱していった同胞たちと同様に。 それを改めて胸中で誓いながら、劉鳳は黙祷のように閉じていた目を開け、座りなおして、「そうか」とだけ頷いた。 そこにシェリスが自分の隣へと座り込んで尋ねて来る。 「……随分とうなされていたけど、どんな夢を見ていたの?」 シェリスのその問いに、劉鳳は彼女の方を振り向かぬままその表情を鋭く、そして厳しくさせながらハッキリと告げた。 「―――敵の夢だ」 思っても見なかった返答だったのだろう、それこそシェリスの顔は「え?」と驚いている。 だが劉鳳は気にした様子も無く、ただ淡々と拳を強く握りこみそれに視線を落としながら続きを呟くのみ。 「俺の敵の夢だ。……恐らくエマージーもあの男に……ならば、やらなければならない―――この手で」 そう呟きながら、劉鳳は握っていた拳を手刀の形へと変え、真っ直ぐに伸ばした。 まるでそれを断罪の……これまで散っていった同胞たちのための弔いの剣へと変えるように。 「……あんまり先へ行かないで。追いかけるの、大変よ」 それに対してシェリスが呟いたのは、どこか寂しさをも含んだそんな言葉だった。 それもそうだろう、今だってシェリスにしては劉鳳は遠いのだ。 今の気負う彼の姿は、彼女に益々それを遠ざかさせているかのようにも感じさせていた。 「俺は何処にも行かない。此処で……この大地で、俺は理想を追い求める」 シェリスの言葉に応えるように、それが絶対のことだといった態度で劉鳳は呟いていた。 そう、己の居場所は此処にしかない。そしてこの場所でなければ駄目だ。 彼女たちが……母や絶影が愛し、共に暮らしたこの大地。 この大地の上で、真の絶対的秩序を、誰もが幸せに安心して笑って暮らせるようになる……そんな平和な世界を作らねばならないのだ。 「……ホーリーとしての理想?」 「当然だ。だからこそ倒す必要がある」 ホーリーの理想は劉鳳にとっても悲願であり理想。 故にこそ、己の力と正義をただ無心に捧げ続けてきた。 これからもそうある限り、劉鳳もまたホーリーと共にあり続ける。 だからこそ――― 「―――あの男を」 ―――カズマを倒さねばならないのだ。 あの秩序を乱す、理性無き毒虫、社会不適格者の騒乱の原因。 憎むべき―――悪を。 倒さねばならない、この自らの手で。 それを改めて、そして強く劉鳳は誓った。 「お、漸くお目覚めかよ」 妙な夢を見ていた気がした。気がつけば君島が寝ていたこちらを覗きこむようにそんなことを言ってきた。 「知ってっか? お前、丸二日眠ってたんだぞ」 君島が言ってきた言葉の意味……こうして眼が覚める以前の、そもそも眠り込んでしまった原因を思い出す。 フラッシュバックのように駆け抜けるのは、ホーリーのアルター使いとの戦闘。 自称無敵のヒーローだとかいう妙なロボット、それを相手に本土から来た高町なのはの仲間である赤いガキと一緒に戦い………。 そう、シェルブリット・バースト―――新たに手に入れたこの力を引き出し奴を倒して……… 「そうか……俺はホーリー野郎と戦って―――ッ!?」 漸く思い出した記憶と共に、気絶する寸前にも感じた激痛が再び右腕へと走りカズマは呻きながら己が右腕を押さえる。 「……動かすなよ。相当酷いぜ」 心配気に言ってくる君島のその言葉に対し、しかしカズマの方はと言えば、 「……見たのか?」 隠し続けてきたものがバレたと言った表情で苦々しく問い直す。 「仕方ないだろう。……ほらよ」 君島の方もこちらを治療する為には確認せざるを得なかったのだと態度で示しながら、カズマへと水の入った給水器を差し出してくる。 「食欲あるか?」 君島の体調確認に対し、カズマは頷きながら差し出された水を受け取り飲み始める。 暫く黙って水を飲み続けていたカズマだったが、それを飲み終わると共に再び言葉を発し始める。 「漸く、実感したぜ」 「何が?」 「俺がまだ生きてるってことがな」 「縁起でもねえこと言うんじゃねえよ」 君島は不吉な物言いと捉えている様だが、カズマにしてみれば違う。 痛みを感じ、渇きを覚え、飢えで腹を空かす。 真にいつも通り、まさに生きてる人間が実感することだ。 それを人並みに漸くカズマも抱き始めてきた。だからこそ、まだ己は生きていると実感できる。 そして生きているからこそ……まだ、戦える。 ある種当然のことだが、こうして実感できただけでカズマには十分だった。 「……なぁ、その腕なんなんだ? 教えろよ」 やがて意を決したように君島はカズマに対して、そんな核心に迫る問いを発していた。 君島がアレを目撃したのは都合三度目。 一度目は、あのアルターの森で。 二度目は、本土のアルター使い、高町なのはとの決戦の時に。 そして三度目、先のエマージー・マクスウェルとの戦い。 それらを目撃し、君島もカズマが今まで以上の巨大な力を手に入れたのだということは理解できた。 実際、この目であの輝きを目撃し、君島自身すら希望で奮い立たされたほどだ。 だがだからこそ、知りたかった。 以前の自分が知らない、相棒が手に入れた新たな力。 恐ろしく反動も強いのであろう、未知のその力の事を………。 「……コイツか? コイツは―――」 カズマはその君島の問いに対し、己が拳を強く握りこみながら、それを真っ直ぐに前へと突き出す。 そうして脳裏に過ぎるのは、ソレを手に入れたあの経緯――― アルターを進化されることが出来ると言い伝えられているアルターの森。 新たな力を掴み取るため、カズマは相棒の君島の制止を振り切り、単独でその森へと侵入した。 最奥を目指し、野生動物たちが放ってくる数多のアルター能力、それらを振り切り彼は遂に森の最深部にまで足を踏み込むことに成功した。 そしてそこで待ち受けていたのが――― ―――両の腕に雷を宿した、正体不明のアルター。 最初、ソイツが何者なのかはさっぱり分からなかった。否、今だってその正確な正体などハッキリしていない。 だが以前に宿敵が……あの劉鳳が追い求めていた敵なのではないかと気づいただけだ。 兎に角、ソイツは強かった。圧倒的と言って良いほどにカズマでは手も足も出なかった。 正直、ボコボコにされてコイツには勝てないのかと諦めを一瞬でも抱きかけたほどだった。 だが――― 『俺はやられに来たんじゃねえ……背負いに来たんだッ!』 小せえ、そう……己が背負っているものなどあまりにも小さいものに過ぎなかった。 だがそれでも、自分にとってソレは……投げ捨てるわけにはいかないほどに、他の何よりも重たいものだった。 その重さをシッカリと思い出し、そして背負い直す。 その覚悟を改めて抱き直し、カズマは強大な相手に特攻紛いの正面突破を仕掛けた。 結果、カズマの拳は相手の身体を貫き、そのまま背骨を圧し折って抜き取った。 だがそれすらも敵は瞬時に再生、瞬く間に手傷など皆無という状態にまで戻ってしまった。 それこそ相手の驚異的な再生力には流石のカズマも驚愕していた。 だが次の瞬間だった。 握っていた戦利品―――相手の背骨が輝きだし、ソレを掴んでいたカズマの右腕をも包み込んでいく。 正直、己に起こっている変化。流れ込んで来る何かなどサッパリ分からなかった。 だが気がつけば、カズマの右腕はその輝きが納まるのと同時に変貌を遂げていた。 ……そう、新たなシェルブリットの誕生であった。 瞬間、理解した。 何を理解したか……ソレはよく分からないが、兎に角、理解した。 ―――遂に、手に入れた。 その事実、流れ込んでくる際限なき力を感じ取り、それこそ歓喜の哄笑が上がった。 そして沸き立つ新たな欲求。 もっと、もっとだ! もっと――― ―――もっと輝けぇ! ただそれだけを渇望して、カズマは新たに手に入れたその力で眼前の敵へと殴りかかり――― 結局、ソイツを倒しきることも出来ず、状況把握も出来ず曖昧なまま、気づけばアルターの森の外へと出ていた。 それがカズマが新たな力……進化を果たしたシェルブリットを手に入れた経緯だった。 「……実はな、俺にも何だか良く分からねえんだ」 脳裏に思い出したその経緯を改めて愉快に笑いながら、カズマは君島に対してそう告げた。 そう、良く分からない。カズマ自身にだってあの出来事はサッパリ意味不明だった。 だがそれがどうした? そんなこと、カズマにとってはそれこそ瑣末事に過ぎなかった。 大事なのは、そんなところではない。そう、大事なのは――― 「ただこれだけは言える。このイカレタ腕のせいで、俺は馬鹿みたいに丸二日も眠ってて、その間にもホーリーのクソ野郎共がここいら辺をうろつき回ってるってことがなぁっ!」 そう言いながら勢い良くカズマは立ち上がった。 話は終わりだ、そろそろ次の行動に移ることとしよう。 ゴタゴタと疑問を追及することや、過程を振り返ることなど今の自分には不要なことに過ぎない。 ただ行動あるのみ、カズマの単純すぎる思考の中に存在するのはそれだけだった。 「おい、ちょっと待てよ!」 君島もまたそんなカズマを追いかけて、慌てて立ち上がりながらそう言葉をかける。 だがカズマは君島のそんな言葉にすら、 「待ってどうする?」 そう切り捨てるのみ。 待つ……カズマにとってこれ程NGな選択肢は存在しない、まさにそんな態度だった。 「良いのかよ、おい!?」 そう言ってくる君島に、カズマは振り返り彼の胸倉を掴み上げながら睨みつけ口を開く。 「良い悪いの問題じゃねえ! やるかやらねえかだ!」 「……やるって何を!?」 相変わらずのカズマの理不尽な言動に君島もまたヤケになったように怒鳴り返す。 それに対し、カズマはニヤリと笑みを浮かべる。 「まずはかなみの所に戻る。そんで飯をたらふく喰ったら、ホーリーの奴らをギタギタにする! この腕で!……簡単だろう?」 そう言いながら拳を強く握りこむのを見せ付けながら、獣のように獰猛に笑うカズマ。 君島としては未だに戸惑っていたのだが、カズマの中では既にそれらは迷い無く実行する確定事項になっているようだ。 掴んでいたこちらの胸倉を離し、軽くポンポンと叩きながら申し訳程度に整えた後、カズマは再び背を向けて歩みを進めだした。 君島は呆然とその背中の大きさと遠さ、そしてまったくのブレの無さを見続けることしか出来なかった。 (……時折よ、お前が羨ましくてしょうがねえんだ。何でそんなに決められる? 何で迷わない?……期待しちまうだろう、俺もお前のようになれるかもしれないって……) 嗚呼、俺はあの馬鹿のようになりたいのだな、そう改めて君島は実感した。 この馬鹿で考え無しで、オマケに甲斐性無しのロクデナシ、挙句の果てにはクズ同然。 そんな相棒に魅せられて……コイツのように強くありたいと願ってしまっている。 俺もいつか、この馬鹿のようになれるのだろうか……? そんなことを考えていた時だった。耳に響くクラクションが鳴り響いているのに気づいた。 「君島ぁ、早く来い! 動かし方分かんねえよ」 そう言って自分の車の前でこちらに早く来るように大声を上げている相棒。 「……ほんと、まったくさ」 自然と君島の顔からは笑みが零れていた。 今は相変わらずに、あの馬鹿の背中は遠い。追いかけようにも、追い続ける事だけで精一杯だ。 だがいつか……そう、いつか必ず追いついて、並んでやる。 あの馬鹿と本当の意味で対等で、相応しい相棒になるために。 それを固く誓い直して、君島邦彦はカズマの元へと駆け出した。 「……私に、逃げ帰れというのですか?」 連第三空港、本土とロストグラウンドを繋ぐ数少ない交通路の一つであるその場所で向かい合うように立つ三者。 桐生水守、ストレイト・クーガー、そして高町なのは。 水守を救出した後、三人は混乱に乗じて脱出、そして現在はクーガーが手配していた本土行きの便へと水守を乗せるために此処まで来ていたのだ。 クーガーとなのはは水守の護衛を兼ねた見送りであり、そして現在はその前段階の説得をしなければならない真っ最中でもあった。 「他に貴女を護れる術を知りません。……それに、生きていれば何とかなる」 「……クーガーさんの言う通りだよ、水守さん。悔しいのは分かる、けど……今はそれでも貴女自身の身の安全が第一だよ」 二人がかりの恩人たちからの説得。 だが水守もまた本質的に芯の強い娘、恐ろしい目を経験した恐怖は未だに残っている。足手纏いにしかならないという自覚もある。 けれどそれでも、この大地から一人逃げ帰るなどという選択はどうしても納得しかねていた。 「しかし―――」 「水守さん、貴女の戦いは決して終わったわけじゃないんだよ」 尚も言い縋ろうとする水守の言葉を遮り、唐突になのはが言ってきた言葉に水守はそれこそ驚きの表情を見せる。 それはクーガーもまた同じだった。彼にしても無理矢理にでも水守を飛行機に乗せなければならないのは同じだ、それをなのはがどう説得するのか興味はあった。 「……私の戦いは、終わってない?」 「そうだよ、水守さん。貴女の戦いはまだ全然終わってなんていない」 ならば何故本土に逃げ帰れなどというのか、共にこの大地の上で戦わせてはくれないのか。 訳が分からない、そんな感情を顕にする水守になのはは言葉を続ける。 「水守さんは水守さんにしか出来ない戦い方をするの。このロストグラウンドじゃなく、本土に戻って、貴女がこの大地で見てきた真実を本土の人々に伝えるんだよ」 「………それが、戦い?」 「そう、これは本土に居場所のある水守さんにしか出来ない、貴女だけの戦い方。それが貴女のこれからの戦い」 そう言ってなのはは安心させるように水守へと笑みを浮かべ、告げる。 「貴女は本土から、私はこのロストグラウンドで、それぞれ自分の戦いをして行こう。大丈夫、戦い方も、戦う方法も違っても、同じ目的に向かって進み続けている限り、私たちは仲間……いつも、一緒だよ」 そう言いながら、なのはは持っていた手荷物―――自分が纏めた水守の私物を彼女へと渡す。 「……コレが本土行きのチケットです。そろそろ時間もありませんし、お早めに」 そう言って次にクーガーがチケットを水守へと手渡してくる。 ソレらを受け取りながら、水守は二人を見つめながらこれだけは聞いておかなければと問いかけた。 「……貴方達は、罪に問われないのですか?」 どう考えてもジグマールの意向に逆らった命令違反であり越権行為。 最悪、反逆者として処分されてしまうのではないのかと申し訳なさと恐れが水守にはあった。 だがそんな彼女の不安を払拭させるように、ただどちらも笑みを浮かべながら、 「誰も俺の速さを知覚など出来ません。安心してください」 「大丈夫、これくらいの事はしょちゅうやってるし、無茶して怒られるのには慣れてるから」 そう両者共に水守の不安を否定してくる。 「でも―――」 それでもという思いが水守にはあるようで食い下がろうとしてきた。だがそれを遮るようにクーガーが先んじて手を差し出してくる。 別れの握手……それが意味するところがこの場に居る者達で分からない者はいなかった。 「お元気で。桐生―――」 またいつものように、最後まで名前を間違えるのだろうかと水守はおろかなのはですら思った。 しかし――― 「―――み・も・り、さん」 間違ってないでしょう、そんな悪戯小僧のような笑みを浮かべながらクーガーは名前を呼んで来た。 それが意図するところ、その意味を二人も理解した。 「ありがとうございます」 水守もまた応えるように笑みを浮かべ、シッカリとクーガーと握手を交わした。 そして次に、水守はその隣のなのはへと視線を向ける。 なのはもまた、穏やかな笑みを向けながらその手をこちらへと差し出してくれていた。 思えば、初めてこのロストグラウンドで手を交わしあったのは彼女だった。 そして最後もまた、再び彼女と言うことになるのだろう。 数奇な縁に運命に近いモノを感じながら、なのはの差し出す手を水守はシッカリと握った。 「高町さ―――」 「―――なのは」 水守の言葉を遮るように、なのはが口を開いてきた意味が一瞬分からずに「え?」とそれこそ戸惑っていた。 「なのはでいいよ。皆……友達はそう呼んでくれるから」 優しい笑みとその言葉の意味に水守は戸惑いながらも、やがて気づいた。そして気づいたからこそ、遠慮がちになのはへと問いかける。 「……私が、友達ですか?」 「うん、駄目かな? 私にとって水守さんは、この大地で出来た初めての友達の心算だったんだけど」 迷惑かな、そう問うてくるなのはに対し、水守は慌てて首を振る。 そんなことはない、むしろその逆だ。 そう、むしろ――― 「―――ありがとう、ございます。なのはさん」 ―――嬉しかった。 友達。 振り返れば桐生水守の人生において、それに本当の意味で該当する者は驚くほどに少なかった。 本土でも有数の大財閥の令嬢。才色兼備の才媛。 多くの者が水守を取り巻き、色々と関わってきた。だがそれもほぼ全てが上記のものを見て、それを求めてしか近付いてこなかった。 誰も、桐生水守個人を見て友達となろうとしてくれる者などいなかった。 そう、六年前のあの劉鳳以来、誰も………。 そんな自分を、ただ足手纏いなだけで無力でしかない自分を。 己の身の危険すら顧みず、無償の行動で助けてくれた彼女たち。 彼女たちは自分を……ただの桐生水守として見てくれている。 それは何よりも……水守にとって、ただ只管に嬉しかった。 再び、こんなにも星が近い大地の上で。 桐生水守は新たな友達を作ることが出来たのだ。 「俺は、ホーリーに入って文化的な生活をするようになってから気づいたことがあります」 水守を乗せた本土行きの飛行機が飛び立っていくのを見つめながら、唐突にクーガーがそんなことを言ってくる。 飛行機を見上げ並んで立っていたなのははクーガーの方へと振り向き、続きを聞く。 「確かに文化も社会的秩序も素晴らしい。……しかし人間は本来、争う生き物なのです。平穏を維持しようとすれば、歪みが生じる。彼女はその歪みを見てしまった……ただ、それだけです」 彼女自身に問題があったわけでも、無論非があったわけでもなく。 彼女もまた巻き込まれてしまっただけの犠牲者、クーガーはそう言いたいらしい。 「そしてなのかさん「“なのは”です」……失敬。兎に角、貴女もまた彼女と同様にそれを見てしまった。貴女はどうするんです? その歪みを前に立ち向かうのか、それとも―――」 桐生水守がジグマールから告げられた真実。 なのはもまたそれを既に水守から聞いている。正直、彼女の倫理観からしても、これは見逃せず、許しがたきこと。 止めなければならない、そう改めて強くなのはは思ってもいた。 だがだからこそ、その道を選ぶということがどういうことを意味しているのかも既に彼女自身も痛いほどに良く理解してもいた。 つまりジグマールを、ホーリーを……否、その背後に存在する本土の企みを止めようというのならば――― 「茨の……いいえ、修羅の道かもしれません。彼女にはああ言ったとはいえ、別にそれから逃げ出しても貴女を責める者は多分いませんよ」 「……優しいですね、クーガーさんは」 「いえいえ、少しばかりお節介なだけですよ」 そんな風に誤魔化してくるクーガーだが、無論なのはとて分かっていた。 彼はつまり自分の事もまた心配してくれているのだ。だからこそ、問うているのだろう。 その道を、選択肢を選んでも、後悔しない覚悟があるかどうかを………。 「クーガーさん、人は確かに争い合う生き物なのかもしれません」 彼の言葉通り、元来人とはそんな生き物だ。 時空管理局に所属し、戦い続けてきたなのは自身、それは良く分かっている。 自分たちこそが正しい、無論そんなことなど絶対にありえない。 星の数だけ人はいて、そして人の数だけ思いや信念、正義はある。 それがこちらの目から見ればどれだけ非道に映るものでアレ、その当人が思い続けるならその当人にとってその行いは正義。 かつて、最愛の娘を蘇らせる為に狂気へと堕ちたプレシア・テスタロッサ然り。 最愛の主を護る為に、主が禁じた行いに手を染めてでも主を助けようとした守護騎士たち然り。 或いは、無限の欲望に突き動かされ、新天地を求めた狂気の科学者と娘たちもまた同じだったのであろう。 それらをなのははずっと考え続けてきた。 「ですが、争い合う生き物なのかもしれませんが……だからこそ、その後に手を取り合って分かりあうことも出来る生き物なんじゃないかなって私は思っています」 母に愛してもらうのではなく、母を愛する事を自らで決め、一歩を踏み出した親友のように。 主を護る為に戦い続け、誇りを取り戻した夜天の守護騎士たちのように。 罪の在処を自覚し、それを償いながら自分たちの新しい道を模索し始めている機械仕掛けの少女たちのように。 そして今も、自身の前に立ち塞がっている壁を打ち砕く為、戦い続けているのであろうあの少年とも。 ―――きっと分かり合うことが出来る、そう信じていた。 「だからこそ、まずはその分かり合うための舞台になるべきこの大地を―――私は護ります。護る為に、戦います」 その前に立ち塞がる壁の正体は、もう見えた。 ならば迷わない、私は私のやり方で、私の戦いで壁を超える。 ………それで良いんだよね、カズマ君。 「……強い女性だ」 実に立派な決意だと、クーガーもまたそれを認めていた。 懐かしい弟分を連想させるような、真っ直ぐな覚悟と決意。 嗚呼、惜しい。もし桐生水守と出会っていなければ、彼女に惚れていたかもしれない。 いや、自分は桐生水守に惚れているのだからそれ以外はそれ以上でも以下でもないなと思い直す。 だからこそ、そんなものとは別にクーガーは彼女へとこの言葉を贈る。 敬意を込めて。 「俺は貴女を尊敬しますよ。高町―――なのはさん」 「もっとスピード上げろよ、君島」 速さが足りない、そう言わんばかりの文句を告げてくるカズマに君島は怒鳴り返す。 「これが精一杯だっての!」 急かしてくる相棒の健気なアッシーと化しているこちらに対し文句ばかり言ってきやがってと君島は怒鳴り返す。 だがそれにすらカズマは平然と、 「新車くらい買えよ?」 ……そんな王様発言をしてくる始末だ。 ワーオ、こいつ殴っても良いですかと割りと本気で君島が思ったのは此処だけの秘密だ。 「ついこの間までピカピカだったんだよッ!……思い出させんなよ」 そう、あのホーリーに大敗北を喫する以前までなら、どれ程自分の羽振りは良かったことか。 あの新車で、それこそあやせさんとドライブとしゃれ込みたかったというのに。 思い出したら本気で悲しく、鬱になってきた。 そんな時だった。助手席のカズマが再び右腕を押さえて呻きだしたのは。 「痛むのか?」 心配気に訊いた君島のその言葉に対し、しかしカズマは次の瞬間それこそ平然とした態度へと戻りながら、 「あ? 何言ってんだ?」 何処までも強がりで意地っ張り、弱みを見せようともしてこない。 それが可笑しくて君島はつい笑ってしまっていた。 馬鹿にされているのかとも思い、胡乱気に睨むカズマが口を開こうとした瞬間だった。 「……何だ?」 「やべえ! ホールドだ!」 直ぐ近く、気づけばホールドのトレーラーが丘を挟んで併走していた。 瞬間、カズマは何かが己の内を駆け抜けていくのを感じた。 「―――何だ?」 それは彼―――劉鳳もまた同様だった。 正体不明の違和感、それが自分の中を駆け抜けていった。 いったいこの感覚は何だと戸惑いかけていたその時だった。 「八時方向に移動物体があるわ。……この大きさだと一般的な車両タイプだと思うけど」 シェリスからの報告に劉鳳はまさかと脳裏に過ぎった可能性を検討しかけたその時だった。 「劉鳳、隊長から通信だ」 瓜核からかかってきたその言葉に、優先順位が何なのかを思い直した。 「……分かった、回してくれ」 「どうするカズマ、離れてくけど……」 交戦は避けきれない、君島もまたそう思っていたというのに何故かトレーラーはそのまま方向転換をしてこちらから離れて行く。 あちらがこちらに気づかなかったのか、或いは交戦するよりも別の目的が出来たのか。 どちらかは分からない。或いはどちらでもない別の理由なのかもしれない。 だが兎に角、ホールドのトレーラーが離れていこうとしているのも事実だった。 しかし向こうが逃げるからといって、こちらが……カズマが果たしてそれを見逃すとは思えない。 追いかけてぶっ飛ばす、そう言いだすとばかり思っていたのに、 「無視だ無視! 今はかなみの所に戻るのが先だ」 意外にもそんなことを言ってくるカズマにそれこそ君島は驚いた。 ホーリーとの喧嘩よりも、かなみとの再会を優先するとはそれはまた――― 「おー、血の気が有り余ってるカズマ大先生が、そんな殊勝なことを言うなんて……雨どころの騒ぎじゃねえぞ、こりゃあ」 珍しいこともあるものだとつくづく君島は思った。 だがカズマはそれにからかわれたと感じたのだろう、「うるせえよッ!」と顔を顰めながら思い切り怒鳴ってきた。 だが君島は滅多に見れないカズマのそんな可笑しさを楽しみながら、はいはいと適当に相手をして教えてやる。 「この丘を越えれば、もうすぐ愛しのかなみちゃんとの再会だ」 そう言ってさっさと届けてやるかと思い直していた君島だったが………。 次の瞬間、急ブレーキを踏み車を停めていた。 「……って……おい……」 何だよ、コレ? それが眼前の光景を前に、車から思わず飛び出した二人が思った共通の思いだった。 燃えていた。煙があちこちで上がり、建物や柵は破壊され、死んだ牛があちこちに転がっていた。 どう見ても……只事ではない事態だった。 そして何より、彼らにとって信じられないのは、この眼前の光景が広がっているこの場所が――― 「……おい、此処って……かなみちゃんが行ってる場所じゃあ………」 震える君島の声が、カズマには何処か遠く響くだけであった。 ただ呆然と信じられないように目を見開き、カズマたちは立ち竦む以外に道は無かった。 次回予告 第6話 君島邦彦 馬鹿な男と吐き捨てて、クズな男と揶揄される。 愚直な生き方否定され、道化は嗤いに包まれた。 しかし見ろ、あれを見ろ。 あれがカズマだ! 君島だ! そのクズ、その馬鹿、他には―――いない。 目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html 前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3151.html 次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3163.html